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【再来】

手を繋ぎ、騒ぐ民衆の頭上をフワリと浮いた二人の陰は、

真っ直ぐ上空へ向かって上昇する。

撃ち落とそうとする火矢も届かぬ位置で止まり、眼下を見下ろせば、
火炙りの予定されていた広場を囲むように人の群れが見えた。

「…あの娘らも、無事逃げれたよ―だな」

そのおどけた様な声色の中に、安堵の気配を読み取って、ダイは頷いた。

注意が自分達に向いている合間に、同じく魔法を使う魔女として処刑される予定だった娘とその祖母が、
魔法使いのかけた姿隠しの魔法にて無事逃れられた筈だ。

元々彼女たちは善良なジプシーの占い師であり、
魔女と呼ばれるには冤罪過ぎる。

そもそも、神秘の力を操るとゆうだけで、
人が狩られ処罰される今の時代の風潮こそ、ダイにすれば忌むべきものだ。

遥か昔から、魔法力は超自然の恩恵として人間を助けてきたのだ。
それを廃絶しようなどとは、この世の理に逆らう行為で、

……ダイ自らの存在意義からすれば本来なら、
粛清を与えるべき基準にまで【人間】は傲っている。

けれど。

「臆病なんだ、許してやんな」

いっそ、その言葉だけで、
一瞬で引き戻される過去への郷愁に眩暈がするほど、

『お前』らしい言葉。

それが実は世界の未来を左右しているだなんて、
お前はわかっているのだろうか?

「なあ、何処へ行くつもりだよ?」

繋いだ指先に促すような、僅かな力が加わる。

遥か地表から相手に視線を戻せば、

目深なフードは風により取り払われていて、

印象的な黒曜の瞳に長めの前髪がはらりと掛かり、
口端には緩い笑み。
何世を重ねたとしても、不動に変わらぬ彼が在った。

魂だけでなくその姿カタチ、力さえも不変で在るには、

きっと沢山の制約を打ち破り、誓約を打ち立てたに違いない。

この存在の為ならば、
三世の調停者である事など二の次だ。

「何処へでも、ポップは?」

逆に聞く。

「…俺、お前に名乗ったっけ?」

「言ったろ、何度も逢ったって」

「ふーん…そっか」

その目線がふと、己自身の手首に落とされる。

そこに浮かぶ難解な紋様は、なんらかの呪(まじな)いだろうか。

ダイが黙って応えをまてば、
ポップはひとつ、頷いて。

「じゃあさ、遠く、行こうぜ」

今度は子供の様に屈託無く、笑った。

「うん、行こう」

一瞬の呼吸の合間に光となり、細く棚引く尾を連れて、

2人の姿は蒼穹の果てへ、飛び去って消えた。

【終わり】

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2009/7/25

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