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【わけあう】
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じゃらりと船底に投げ出した硬貨は心許ない数しかなくて、最初に辿り着いた港町で
乾パンと僅かばかりの干し肉と毛布を1枚買ったらもう、1ツ手で足りる数しか残らなかった。
みゃあ、と猫に似た声で鳴く鳥が滑るように飛ぶ空の下、町外れの草むらで開いた
ポップの新緑色のグローブに包まれた手の中には、優しい土色の銅貨が4枚、転がっている。「…一泊だけなら、泊まれねぇこともねぇな」
凝っと見詰めるダイの視線が居心地悪かったのか、きゅう、とその手は閉じられてしまった。
「でも、勿体ないよ」
確かに1泊4Gの宿は破格に安いのだけれど、それが全財産では話が別だ。
「枯れ葉を集めて敷けば結構柔らかくて暖かくて快適だよ」
デルムリン島には一応家らしきものを構えてはいたけれど、基本野性児育ちのダイは
柔らかな寝台や綺麗な部屋にこだわりがない。「ん、じゃあ、野宿決定な」
アバンとの旅が長いポップも抵抗はないのか、あっさりと頷いてその手を財布がわりの巾着へと突っ込んだ。
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広い広い空は黒天鵞絨の天蓋に銀砂の星を撒き、そこら中から集めた枯れ草の布団は
予想以上の柔らかさで、いちまいだけの毛布に二人で身を包む。
狭い毛布に区切られた空間に二人分の体温がぎゅうっと押し込まれて、夜の寒さを寄せ付けない。「…あったけーなー…おまえー…」
もぞ、とポップが身動ぐとかさこそ枯れ葉が囁いて、近くなる距離にほわんと鼻先がぬるむ。
「ポップだって、充分暖かいよ」
懐くように鼻先をうなじにうずめると、擽ったいのかくすくす笑う声が直接肌に響いて来て、
不思議にとくんとダイの胸が騒いだ。「あー…太陽のにおいするよ、おまえ…」
ふにゃふにゃ、と不明瞭な言葉を呟いたポップはそのままするりと睡魔の腕に抱かれてしまって、
おいてきぼりのダイは少し不満そうにもういちど鼻っ面をポップの襟元に押し込んだ。「…無防備だなぁ、ポップは」
もしかしたらこの夜にもハドラーの命を受けたモンスターが襲ってくるかも知れないのに。
そんなことを考えていたはずなのに、いつのまにかふにゃりとダイの黒々とした眉が崩れて、
すやすやと穏やかな寝息に代わる。
あとはただ、草原を渡る風がさやさやと枯れ葉のベッドを鳴らすばかり。
ふたりが温もりを分け合ういちまいの毛布には、静かに銀貨のような月が光を落とすだけ。.
【終わり】
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先日のメモSSのネタになった柴崎様とのメールが以前あったのですが、
更にそれをモトにした素晴らしく萌なSSを頂いちゃいました!
流石言葉の吟遊詩人柴崎様、
もうダイもポップも可愛くてかわいくて…っ。
当然の様に一つのものをわけあう二人が凄く好きです。
柴崎様ありがとうございました!
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>ルドルフ。
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2008/11/18
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