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「あら・・・珍しい。見てください。姫様。」
ちょうど、エイミの部屋で二人。
のんびりと会話をしていた時だった。
「なぁに?」
窓の外を指さしているエイミの指先を見る。
塗りたてのペディキュアが取れないよう、よちよちとひよこのように歩いて。
レオナが窓辺まで近寄った。
「ほら、あそこですよ。」
コの字型を描くように中庭に沿って建っているパプニカ城。
そのちょうど端の部屋はエイミの私室。
コの字型の向こう側。
向かい合っている2人を指さしていた。
1人は上等な室内着を着てはいるが、
袖を肘までまくった逞しい腕を腰に当て、ひとまわり小さい相手に
なにか激しく言っているようだ。
言われているのは、簡素な法衣を着たひょろりと細い青年。
自分よりも大きい相手に激しく怒鳴られている様子だったが、
腕を組み、口元には笑みを浮かべている。
その笑みが嫌味を滲ませている様子は、
離れていてもわかるほどだった。
「あら。喧嘩かしら。」
ぎゃぁぎゃぁと、ここまで声が聞こえてきそうなほどに
2人は言い争っている。
「・・・・・なんだかいつもと違うみたいですね。」
「そうね・・・・。」
「あまり2人は喧嘩しないですものね。」
エイミは結いあげる途中でやめた髪を弄びながらつぶやいた。
「そうねぇ、大概はどっちか片方が怒っているだけで、喧嘩にならないからね。」
「どうします?」
「どう・・・って言われても。別に相談されたわけじゃないし・・・。
2人の問題でしょう?」
レオナは窓辺の二人掛けのソファーに腰をおろし、
足先を眺めた。
「あぁん。せっかく綺麗に塗れてたのに・・・。」
足先のペディキュアはちょうど薬指。
薄い桃色がグラデーションに塗られていたが、先のほうがよれていた。
「あぁ。大丈夫ですよ、これくらいなら。今直して差し上げます。」
エイミは自分の太腿に高貴で白く細い足先を乗せ、ほほ笑んだ。
「なんて、言っている間にもう、仲直りしているんじゃないですかね。」
屈んだせいでもう、夜空をくり抜いたように丸く光る白銀の月だけしか見えない、
窓を眺めて言った。
あぁ。綺麗な月だわ。
同じような色をした髪を持つ剣士を思い出し、胸をきゅぅと掴まれたその時だった。
ドンっ。
「なに?!」
大きな物音にレオナがさっと身を固くしたあと、
ひらりと身を返しソファーに膝をついて窓の外を見た。
「どうしました?」
エイミもレオナの後ろから覗き込む。
しかし、残されていたのは1人だけ。
壁に開いた穴を眺めているポップ1人。
おそらく開けた本人であろう、ダイはすでに消えていた。
並々ならぬ喧嘩に2人は無言で顔を見合わせた。

ぴりぴりと空気が流れる。
こんな不穏な空気が流れているならば、
ここへ来なければよかった。
そう思いながら、ヒュンケルは中庭でもそもそと味の分からない昼食を咀嚼した。
弟同士が喧嘩しているのは一目瞭然だが。
ならば、なぜそんな状態なのに一緒に昼食をとるのか。
まったく理解できない。
2人はヒュンケルを間に挟んで互いに反対の方向を向いて、
乱暴に食べ物を口にしている。
食べ物に同情しながら、ヒュンケルはただ前を向いた。
はぁ・・・・。
言葉の代わりに溜息が躍り出た。

「んもう!!いいかげんにしてよ!」
振り返り、レオナは声を張り上げた。
「だって・・・。することないんだもん。」
ダイは、昼食がすんでからレオナの周りをうろうろとして離れなかった。
最初は珍しくてうれしい気持ちもあったものの、
ただうろうろされるとなれば、レオナにも限界があった。
「ダイ君はなくても、あたしはお仕事がいっぱいあるの!
部屋で本でも読んでたら?!」
「本・・・・読んでくれる?」
「読まないわよ!忙しいの!見ればわかるでしょう?!
そんなに時間があるなら、ポップくんと仲直りしたらどうなの?」
いい加減にしてほしいわ。
ため息交じりにそうつぶやく。
大きな体を縮めて、一層落ち込んでしまったダイを眺めて。
レオナは柔らかい声を出して尋ねた。
「一体どうして喧嘩なんかしたの?」
肩に手を乗せて覗き込む。
「・・・・・・・・・。」
いつもは素直で、聞けば大概の事は答えてしまう元勇者だったが、
今回ばかりは違うらしい。
ぐっと床を睨んだまま、口を尖らせて黙っている。
「とにかく。どうせ仲直りするならさっさとしてしまいなさいよ。
喧嘩している時間なんて、もったいないだけだわ。」
さばさばと言うと椅子に戻った。
「うん・・・・。」
上も向かぬまま執務室を出て行ったダイを見てレオナは思わず。
「これは、こじれそうだわ。」

目の前で、生真面目に怒っている半魔族を見て、
溜息が出る。
「・・・俺まで巻き込むな。」
どうやら、今回の喧嘩は手駒戦にまで及んでいる様子だった。
ラーハルトの後ろでダイが子供のように舌を出している。
ぐいぐいと背を押されて、ヒュンケルは一応前には立っているものの、
まったく闘争心がわかない。
振り返れば、ふてくされているポップが睨んでくる。
「いい加減、喧嘩を止めるんだ。」
くだらない。
さっと身をひるがえして、ヒュンケルは演習場へ向かった。
罵詈雑言が聞こえようと、構わなかった。
「いい加減に・・・・。」
もう、やめた。
そう思って演習場の扉を閉めた。

「もう、2人ともどうしたのよ。」
マァムはダイにお菓子を勧めながらほほ笑んだ。
「どうして喧嘩してること知ってるの?」
ダイはほろりと崩れる焼き菓子を食べながら首をかしげた。
「昨日ポップが来てね。」
そこまで言った時だった。
ダイは口内の焼き菓子の味を確かめた。
「これ、ポップが持ってきたんでしょう。」
「えぇ。そうよ。」
がたりと乱暴に椅子から立ち上がると、
坊主憎けりゃの心得に基づき、甘いバニラの味の焼き菓子を睨む。
「もう帰る!」
それだけ言って、ロモスを飛び立った。
「えぇっ!ちょ、ちょっと!ダイ!」
温かい紅茶を手にしたままマァムは光りの矢が飛び立った窓をただ眺めていた。

3人は狭い部屋。
顔を突き合わせていた。
「やっぱり今回の喧嘩は壮絶よね。」
「巻き込まれる方の身にもなってもらいたいものだな。」
「一体なにが原因なの?」
「それが、あたしも聞いたんだけど言わないのよ。」
「レオナにも話さないなんて、よっぽどのことなのね・・・。」
当人を除く、3人の使徒が集まるなんてあまりないことだった。
3人寄ればなんとやらで、集まって情報を交換してみたものの。
分かることは、壮絶に喧嘩しているということだけ。
あまり情報交換の意味もなく、3人はそれぞれ溜息をつく。
「ほんとに何が原因なのかしらね・・・・。」
腕を組んで、何気なくマァムが中庭を眺めた時。
「あ・・・・・。」
「・・・・・?どうしたの?マァム。」
「あれ・・・・。」
呆気にとられた様子で指をさしている先を見たレオナとヒュンケルは、
愕然とした。

中庭では2人、互いにもたれたまま眠っていた。
ポップの膝上には、彼が読むには少し容易すぎる本が広げたまま。
ぱらぱらと風がページをいたずらにめくり上げていた。
それを咎めもせず、2人はぐっすりと寝入っている。

「犬も食わないとはよく言ったものだ。」
「あ〜ぁ。くだらない。」
「まぁまぁ、よかったじゃない。」

<おまけ>
「結局なんだったのよ。喧嘩の原因。」
「えと・・・。これ。」
「・・・・何これ。絵本?」
「うん。これ、読んでっていったの。」
「・・・・(いやな予感)」
「そしたら、ポップったら忙しいとかなんとか言って全然読んでくれないんだよ。
それなのに、(中略)でね、でね。そんで、俺が、頼んだのに結局さぁ。
(中略)ねぇ、聞いてる?レオナ。」
「えぇ。えぇ。聞いてるわ。」
「俺はね、ずっと待ってたのにさぁ・・・(中略)ひどいと思わない?」
「ねぇ、結局本を読んでくれなかったからなの?」
「違うよ!本を読んでほしいのもそうだけど、
ポップったら・・・」(無限ループ突入。

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神楽様のサイトのキリ番を幸運にもゲット出来ました〜。
当たり前のようにダイポプをリクエストした所、こんなに素敵なお話を戴けましたよ?!やったね!

まさに犬も喰わない喧嘩ダイポプ!!
そして周りの人達の視点って、新鮮で楽しいです。
巻き込まれる長男の困り具合ににまにましました。
そして何事にもあっけらかんとしてそうなダイが、
ポップとの事になると無限ループになる様が可愛いくてたまりません!。

神楽様、本当にありがとうございました!

>ルドルフ

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2009/7/8

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