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20000hit御礼

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ご注意・大したことはありませんが、微エロ注意報です。

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以前書いた9000hitお礼【lunatic】にリンクし、

10000hitお礼の【 reverseside of the moon 】
のダイ視点話となります。

そちらを先にお読み戴くとより分かり易いかと思います。

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    【 interfere with the moon 】

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何かに縋るものを探してか虚空を掻くように伸ばされた掌、
その手首をやんわり捕まえて、皺の寄ったシーツに沈める。

「何処へ行きたいの?」

普段はその指先まで、幾重に重ね着されてあまり陽に晒されない素肌は、
暴かれた今白磁器の青白き面を思わせる。

秘められたものほど暴きたくなり、

逃げゆくものほど
留めたくなる。

ダイは知らず薄く笑う自分の口端にふと気が付いた。

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…確かに今、嬉しいのだ。

下に組み敷いた獲物の手応えに、歓喜は背筋を震え登る。

「ポップ…辛い?」

分かり切ったことを聞くのは、自覚させる為だ。

何処までも自由で逃げ去るその意志さえも、自分の下へ引き戻す為に。

ずっとこうして、

その身を割り拓いて、奥深くまで楔を打ち込み侵入しているのだ。

続けざまに揺さぶり、ここで互いの存在が繋がっている事を主張する。

ポップの背がしなってビクリと震えた。

「ひ、ああ…ッ!」

悲痛にさえ聞こえる細い悲鳴。

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「ァっ……う、く」

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痛みを伴う現実を思い知らされて、嘆く心痛を吐露する正直な声色。

だが微かに甘さを含む、ポップの本音。

「もっと、聴かせてよ、声」

その普段とかけ離れた響きに酔いながらも、頭のどこかで一抹の憐憫がある。

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……酷くしたい訳じゃ無い。

ただ、昔より更に隠し事が巧みになってしまったこの魔法使いの、

余すこと無い全てを知りたくて。

その心に一番、誰が想われているのか、
どうしようもなく確かめたくて。

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こうして暴き出し、一切を奪って、
限界まで追い詰めなければ、もう気が済まない。

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…逃がしたくない。

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噂で人伝に聞いたのだ。

『大魔道士様は近々宮廷魔道士を辞してパプニカを去られるそうだ』

『レ.オナ王女も承諾されたとか』

それを聞いた時のダイの衝撃はまだ緩い余震で、信じられないと嗤いながら否定する様なものだったが、

「本当よ、ポップ君は春を待たずにパプニカを去るわ」

真円に満ちた月が西の空に高々と昇る頃、
やっと今日の全ての執務を終了したレオナのもとを訪れて、真意を尋ねダイに、
彼女にしては珍しく、少し疲れた顔をしていた。

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「本人の強い要望で、ね」

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そうして向き合って突きつけられた真実の刃が、真っ直ぐ心臓へ射し込まれる。

信じていた分だけ、意識は粉微塵に砕け散ってしまいそうだった。

何も知らぬは自分ばかり。

何よりポップが、自分に隠し、そのまま去ろうとした事実が、

業火となって胸の内を食い荒らした。

レオナの執務室を出た後の事は、赤い霞掛かった視界に染められてよく覚えていない。

只、ひたすら城内を冷たい怒りに蹂躙されたまま闊歩し、
自分の魔法使いの姿を見つけ出した。

捕まえて、一切の言葉を無視し自室に引きずり込んだ。

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「俺のものだよね?そばに居るよな?」

こんな方法、知らなければ良かった。

枯渇は際限なく、欲は溢れ出すばかり。

求める度に、ポップをこんなに苦しめる。

哀しい、でももう止められない。

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「好き、だよ、ポップ…ッッ」

「あ…ッ!あああッ!!」

熱をその躯の奥深く吐き出すと同時に、告げた心中は偽り無いのに、

涙が溢れて頬を滑り落ちた。

酸素を求め荒い呼吸をせわしく繰り返すポップへ、唇を落とす。

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「お願いだ…何処へも、いかないでくれ…ッ」

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こんな回りくどい方法を使って、懇願したいのは只それだけ。

昔自分の身勝手で置いていった事実があるから、責められたものではない。それは遠い理性で判ってはいる。

どんなに深く一つに繋がったとしても、分け隔てられた二つの個で在る限り、
いずれ抗いがたい離別は訪れる。

また、ダイが愛おしいと思うこの魂が真実自由を願うなら、
喩え世界の法である竜の騎士でさえ、ねじ曲げ矯正させる事など出来ないのだから。

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しかし、それならばなお。

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その瞬間まではと請う。

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(お前の意志で、どうか俺を選んで)

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断罪を待つような瞳のダイへ。

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「ばか…野郎」

絞り出された声は、先程までの度重なる悲鳴に嗄れていた。

肩を掴んだその長い指がぎりりと爪を立て、
皮膚に赤い軌跡を残す。

何処かから糸の様に細く月の光が忍び込んでいる、
部屋を横切り辿り着き、ポップの紅く上気し濡れた面(おもて)を浮かばせていて。

自分の罪を突き付けられている気になる。

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「俺の事なんか……忘れっちまえば…いい」

ポップの頬を、月光に反射した雫は一瞬で滑り墜ちてゆく。

堅く綴じられていた瞼が震え開いて、
拒絶の言の葉より如実に語る雲母の瞳がダイを映した。

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ダイの胸中に在る、ずっと抱えていた苛立ちが爆発した。

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「何で!何も!教えてくれないんだっ!?」

組み敷いたままの両肩を掴み、強くシーツに押し付ける。

ポップは痛みに細い眉をしかめたが、瞳には何時もの強い光が戻ってきていた。

「教えたら…納得すんのか…?」

暫し逡巡した後、頷く。
初めて見せた深層の燐片へ縋るような思いだった。

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「随分前からだがよ、月が満ちる日が来ると………自分の魔法力が制御出来なくなる」

「それは、」

知ってる。

最近は満月の度に自分へ魔法力を打ち消す呪文をかけ、
更に吸収する輝星石を加工した腕輪を填めていた。

しかし今はダイがそれらをすべて剥ぎ取ってしまったため、
今夜、遮るモノが無くなったポップの魔力は、まるで湖の様にこの部屋へ充ちている。

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「管理下に置けない魔力はそれだけで魔を喚ぶんだ、だから、デカい災いに成る前に対処しなきゃなんねぇ…だから遠くに封じ込める」

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「え…」

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だって、それでは、……その源のポップは?

淡々と語るその口調に、自分への甘さは感じられ無くて。

まるで昔大魔王バーンと戦った時に、躊躇なく自分さえダイの盾にした、
あの《魔法使い》としての、ポップだ。
ダイは焦燥感に埋め尽くされる。

「駄目だよ!そんなの…!」

強く抱き込みかぶりを振ると、ポップの手のひらがふと、髪を撫でた。

二人旅した少年の頃、よくした動作のまま。

ハッと顔を上げ、間近のポップの表情を見る。

涙は消えていた。

ひたりと合わさった視線の近さにも反らさずに、ただひたすら深い闇色が有る。
揺るぎない決断を、もうしてしまったポップの瞳。

「俺は世界の……ダイの敵になんざなりたかねぇんだ……ッ!!」

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「……ッ!!!」

ポップはダイを嫌い何も告げず離れようとしたわけではなかった。

ずっと、共に在ることを当然と思い、何とか防ぐ手立てを取ってきたが……

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「限界が来ちまった」

このまま自分の甘えで此処にいれば、
魔力に惹かれた魔物や悪霊がパプニカ、ひいては世界に仇なすだろう。

そうなれば、
世界の脅威を粛清する定めにある優しい勇者が苦悩するだろう事は、
充分過ぎるほど知っている。

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しかしどちらにしても、こうして何より

大事な存在を苦しめ、悩ませ、哀しませてしまったから。

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だから、抵抗もせずぶつけられた激情を、敢えて受け止めた。

だけど最後、だからだけでない。

確かに望んだ。―――自分もダイを。

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「お別れだ、ダイ」
「待っ……」

ポップの両腕が緩やに動き、ダイの肩へ巻き付くように回されて引き寄せられる。

強制睡眠の呪文が直接、重ねられた口付けから送り込まれた。

(駄目だ…行くな…)

最後に見たポップの笑顔は、ダイの好きな自由で闊達なものではなく、

何処か淋しい微笑みで、
その輪郭も月光に溶けて。

魔界の夜より暗い眠りの縁へ沈み込んでいった。

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――――次に目覚めた時、全てはアイツの思惑通り、

自分は残され、世の中は平和に動く。

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だけど。

「俺は嫌だよ」

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昔、自分の剣が置かれた丘に立ち、旅支度をして出て来た城を振り返る。

既に心は決まっていた。

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――――行こう。

何時かお前が迎えに来てくれたように。

何処かできっと待っている筈だから。

何時かの俺が、そうであったように。

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どんな出来事に悲しみと絶望とが魂を苛んでも、

信じていると。

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互いを、信じている。

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「必ず見つける」

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背にかかるマントを払い、身を翻せば目の前に

白んだ満月に少し欠けた月が、登り始めていた。

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     【終】



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2009/02/12

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