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始めに。
これは以前書いたSS【標無き者】の続きにあたる話しです。
上記本文は柴崎様に献上済みです。..
この話はディーノ(ダイ)×ポップです。
正確には
ディーノ(ダイ)→ポップ→ダイ
とゆう良くわからない三角関係です。ポップは記憶喪失中です。
ダイはディーノと名乗ってます。
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以上を踏まえた上でOKな方はどうぞ。
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時が経つほど俺は変わるのに、何もかも失った筈のお前は頑なな程変質しない。
………永遠に変わらないものなど、在るのだろうか?
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【移る季節】
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普通に考えて馬鹿馬鹿しい。
可笑しくって嗤いが漏れた。こんなのって、まるで茶番だ。
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『自分自身』に嫉妬するなんて。
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こんな事ならあの時あんなコトを言わなければ良かったのか?しかし、あれはアレで、俺の本気だったんだ。
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『ダイは死んだ』
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ポップを諦めさせようと……いや、今思えば自分がポップを諦めようとした為についた嘘。
自分を探して何もかも失ったその姿に、それでもなお俺を探し続けていたポップ。
そのくたびれた姿に胸は断罪の念でぎりぎりと引き絞られた。だからあの瞬間。
俺はポップをもう解放してやりたかったんだ。
俺とゆう足枷から。
なのに………。..
流れからこうして二人きり、旅をするようになって、
何もかも忘れたポップに真実を隠し過ごし続ける内、当然のごとく3年もの間秘めて育ったポップへの想いも表立ってきてしまう。
あんなに夢まで見たポップが、地上の平和を選ばす、しかも今自分の隣にいてくれる。
再び共に地上へ帰ろうと…、ポップは屈託無く笑い激化する戦いの最中、当たり前のごとく背中を守ってくれる。
その裏に在るのは、絶対的な『ダイ』への思いの強さ―――。
《ダイ》の代わりに俺を地上へ帰したいのだと、言っていた。しかし今確実に《ディーノ》としての自分を、憎からず思ってくれているのも、感じている。
その柔らかい視線、口調に感じる友愛。
懐へ入れた者へ見せる圧倒的な献身さ。
あまりにも、ポップがあの頃と変わらないものだから……日を追う事に押し込めていた筈の俺の思いは膨らんで。
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もう我慢できない。
そしてつい先程、弾みで……告げてしまったのだ。
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「好きだよ」
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「本当はずっと…ずっと前から、ポップの一番になりたかった」
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それを聞いたポップは初め耳朶まで燃えるように朱に染め上げ、
その後氷海のごとく色を無くし青ざめた。「ごめん、これは一生、言うつもりは無かったんだけど」
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「馬鹿!からかうなよ」
真剣な俺の目線を避けて、踵を返し拒絶した。
「ポップ?」
問い返した俺を、片手で制した。
「すまねぇ……」
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裏切れないから、とその背中が語っている。
《ダイ》への義理立てだと。ポップにそんなに《俺》が想われていてそれが嬉しいやら、現状拒否されて哀しいやら。
正直良くわからない心理状況だ。
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だから、もう一度築き上げたい。
原始よりお前と創れば、それは新しい道になるだろうから。
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………無邪気に笑う顔。
俺に話しながら微笑むディーノは、まるで初めて会った時の冷たく突っぱねた印象とは別人に思える。
もう3ヶ月近い付き合いになるが、ディーノは不思議な奴だ。
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戦闘時に本能だろうか、刹那の瞬間条件反射で繰り出される鮮やかな剣戟に、
思わず見惚れる。..
無邪気な笑みと、一太刀で命を断ち切る鬼神的な強さ……無垢と修羅の二面性を合わせ持ち得る。
単に強いだけか?。
いや違う、コイツの内から感じるのはもっと純粋な……《闘う意思》
守ろうと、している。
何を何から護ろうとしているかは相変わらず口を割らないが、
敵が漏らす情報から推測は出来る。ディーノが戦っているのは魔界の有力者、《ヴェルザー》。
ディーノは《竜の騎士》と呼ばれる特別な力を持つ存在で、地上へそいつが侵略しようとするのを防いでいるらしい。..
《ダイ》はそんなディーノの相棒だったのだろうか。
それを考えるたびに、俺の胸にはざわりと立つ細波がある。
どうゆう経緯か忘れた今ではわからないが、俺を置いて魔界にディーノと来た《ダイ》。
俺がダイを追いかけたのは、戦力外と置いて行かれたのが悔しかったからなのか、
《ダイ》が俺よりディーノと共に在ることを選んだのが悔しかったからなのか。相変わらず何も思い出せないくせに、《ダイ》の事を考えると…酷く苦しくて、胸が熱くなる。
……もうこの世の何処にも、いないのに。
二度と、逢えないのに。
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ディーノと背中合わせで戦う度、かつてこの背を守っていたろうダイを考える。
ディーノは《ダイ》について、殆ど俺には語らない。
だから俺は錯覚してしまうんだ。
《ディーノ》を《ダイ》と。
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その日も襲撃を退けた後、二人とも肩で息をしながら互いの顔を見合わせた時、
剣を鞘に収めたディーノの右手がつと伸びて、「………泣かないでよ、ポップ」
温かい指先が頬に触れた。
何時の間にか、俺の両目からはみっともなく涙が溢れて、
胸元にパタパタと滑り落ち染みをつくっていた。
「わ、ワリィ…」
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まただ。戦闘時余計な事を考えてしまった。
慌てて袖口でぐしゃぐしゃとなった情けない顔を拭う。そんな俺を見つめて、ディーノは凛とした闘いの表情から少し寂く、哀しげな幼い面立ちになる。
判ってる。ディーノのせいじゃない。ディーノは何も悪くない。
でも…こうして甘えてしまうのは、俺がディーノを《ダイ》の身代わりにしている卑怯を、
ディーノも無言で受け止めてくれているからだ。……本当はこんなのダメだとわかっちゃいる。
その時、ふとディーノが小さく呟いた。
「好きだよ」
「…へ?」
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「本当はずっと…ずっとポップの一番になりたかった」
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これは一生、言うつもりは無かった。と呟いた。
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俺はディーノの顔を、心臓が全速力で走った後のように鼓動を打っていて……まともに見ていられなくて、踵を返した。
これは裏切りだろうか?
《ダイ》に対する《裏切り》だろうか?
おそらくはこの意識、
只1人に捧げたろう全てを…ディーノの言葉が打ち崩す。
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天秤が音を立てて傾き始めている。
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恐ろしい。
俺は心底それが恐ろしい。
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「ポップ?」
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「すまねぇ……」
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呟いた言葉は懺悔に他ならない。
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心へ、住まわせる事への。
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「苦しませたいわけじゃないんだ」
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俺の言葉を誤解して、ディーノは俺の背中に真摯な声を投げかけた。
「直ぐでなくていい。でも、考えてみてくれないか?」
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その言葉が思いがけず………嬉しかったのだ。
その時点で、答えは出てしまっているかもしれない。
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「サイテーだな…俺は」
ディーノに聞こえない所まで早足を進め、呟いた。
気を使っているのか、ディーノも距離をあけ歩いている。
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暗い荒野、見上げた魔界のくすんだ厚い雲に覆われた空の、何処かで雷鳴が鳴っている。
雨が来るのだろうか。
障気の渦巻く魔界の気候は変わりやすい。..
ディーノを助けて敵を倒し、一緒に地上へ戻ると決めていた。
その事は不変であっても、
それは今義務感でも、《ダイ》の代わりでも無く。
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「ディーノ!遅ぇと置いてっちまうぞ!」
「!!……うんっ!」
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途端に眩い笑顔を浮かべ、ディーノが走り寄り隣に並んだ。
(そうだな、もし揃って地上に還ったら)
その先は、生きてゆき移りゆくのに任せてみよう。
《ダイ》と同じように、今は《ディーノ》も大事と思うから。
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【終】
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2009/03/13
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