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【解き満ちて礎は還元す 前編】
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青い飛竜が厚く黒い雲を切り裂くように翔ぶ。
風雲急を告げる張り詰めた気配は、この先に待つ波乱の予感を肌を指すように伝えていた。「もっと速く!頼むよ」
騎乗した青年の明朗な力強い声に応えるがごとく、碧玉色の飛竜は澄んだ長い鳴き声をひとつ、響き渡らせた。
そして速度と高度は飛躍的に増し疾駆する。
常人ならばその高速に息が詰まり、瞳を開けていることさえ出来ないであろう、
しかしそんな事は何ら問題が無いように飛竜を繰る青年はすっくと背筋を伸ばし、
鋭く力ある鳶色の瞳で遠くを見据えていた。
その硬めの短い髪を向かい風にになぶらせていても、
理想的に屈強な戦士の身体が微塵として揺らぐ事はない。「―見えた」
独り言の様に吐かれた言葉は、緊張を孕んだ。
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拓けた暗い荒野の直中に、ポツリと在る赤い影。
側に近付くに連れて、悠に城ほどはあろう、巨大な生き物であることが知れた。
それは自分目指して降下する気配に気付き、
威嚇の様に背の両翼を高く広げた。「――大きいな」
国境見回りの衛兵より報告があった通り、
見事なレッドドラゴンが悠然とその巨躯を寛げ、
翼とあぎとのみを油断無く青年に向けている。その上空を二、三度旋回した後に、やや距離を置いて蒼い飛竜を着地させた。
労う様に体に擦り依る愛騎竜を片手で宥め、下がらせながらも青年の瞳は油断無く相手をみる。
ルビーを思わせる輝きの鱗をうねらせて、
獰猛な恐ろしさよりいっそ神々しい火炎竜は、
真面に構えるダイの前にその巨体を悠々向き構えた。その裂けたあぎとから漏れる呼吸の炎熱だけで肌が焦げる様に熱い。
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「おれが竜の騎士ダイだ。
約束どおりに一人で来たんだ…話を聞かせてもらう」青年――ダイは竜を仰ぐように見上げた。
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『竜の騎士が独りでくれば、目的を話す』
魔界にて、竜の騎士ダイが統括する一部の地域、その境界の布置された櫓へ
突如として現れた火焔竜は、
そう見張りの兵に言い放ったのだ。報告を受けた竜騎隊のラーハルトは驚愕の声を上げた。
「バカな、最後の知恵有る竜はヴェルザー以外滅んだのでは無かったのか!」
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「しかし現にこうして出て来てるのだから存在したのだろう。問題は味方か敵かとゆうことだが…」
クロコダインは判断を仰ぐようにダイを見た。
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魔界に降りて5年。
ダイは地上を狙う魔族から人間界を護るべく、ずっと戦い続けていた。一年前に、地上へ続く『旅の扉』とゆうワープゾーンの上に建てられた廃城を見つけ、
そこを根城とし他の魔族を牽制すべく、地上からラーハルトとクロコダインを呼び寄せた。ダイの人望もあってか、いつか城にも人は増え、城下町ができ、一つの国家となりつつある。
17歳の今や背も伸び立派な青年と成長したダイは、
精悍な眉を一瞬考えるように寄せて、それを解くと直ぐに二人を見渡した。「会ってみるよ」
「危険です!ヴェルザーの罠やも」
「どのみちおれを指定してるなら、きっとここにも来る」
ダイは窓辺からその竜がいるとゆう方角を見やった。
「敵なら警告も無く此処を目指すんじゃないかな、
その竜も無用な混乱を避けたいから、わざわざ境界近くの広野に現れたんだと思うし」「ならば私もご一緒します!」
「駄目だよ、あっちはおれ一人でって言ってるんだ、
それに罠かも知れないなら、なおさらここの守りを手薄に出来ない」「…わかりました」
「留守は任せろ、ダイ、何かあったら直ぐ呼ぶんだぞ」
「うん、頼むよクロコダイン、ラーハルト」
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そうして二人を残し、ダイは単身此処に来た。
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「お前の目的はなんだ?何故俺を呼んだんだ?」
「剣を抜け、闘え」
「なに…っ!?」
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ダイの闘気が高まり金を帯び始めた瞳と、竜の思いがけず理知的な黒曜石の瞳がぶつかった。
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【後編に続く】
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2008/11/11
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