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.【花の咲く頃】


その日はとても暖かくめっきり春めいて、
旅の途中、外での夜営もさほど苦に感じなく思えた。

街道より少し外れた所に大きな老樹が、見事に薄紅掛かった小さな花の群集を月夜の下夜空に枝広げていたので。

ダイとポップはその樹の下にと今日の寝床を決めた。

簡単な食事を済ませた後、ふとダイが淡雪と見間違う花びらの舞を仰ぎ見ながら、
幼い頃の記憶を呼び覚まされたように呟やいた。

「そう言えば、デルムリン島にも一本この樹があってさ、
花が咲く頃が俺年を1つとるんだって、じいちゃん言ってたなぁ」

既に火の側へ寝転がり、夢路への船を漕いでいたポップが、それを聴いたとたんにバネ仕掛けみたいに跳ね起きた。

「なんでそーゆうことを早くいわねぇんだっ!」

「え…!?」

予想もしない急なポップの大声で、ダイは目をぱちくりと瞬かせる。

「ちくしょ、何だよもう花も終わりじゃねぇか?次の町までまだ2、3日かかるしっ」

怒られた主旨が解らず、ダイは小首を傾げたまま置いてけぼりになる。

「どうしたんだよ急に」

なにやらまずい事だろうかと不安気に訪ねた。

「どうしたもこうしたも!」

どことなく焦ったような複雑さをそのまま顔に出して、
ポップはダイの鼻先にぴしりと、
この時期の若木新芽と同じ鮮やかな新緑色の長手袋に包まれた、人差し指を突きつける。

「祝うもんなんだよ!誕生日は!」

「へ?」

「プレゼントにご馳走だろ?ガキの頃にはケーキも嬉しかったっけなぁ」

「ふーん、楽しそうだな」

「そりゃ楽しいんだよ!多少の我が儘だって許されるしな」

「へーえ?」

ああ間に合わねえ、いっそルーラ使うか?等と独り言を世話しなく呟くポップを、
暫し黙って見詰めたダイが心底愛おしそうに微笑んで。

「欲しいものなら、直ぐにでも在るんだけど、ね?ポップ」

ずいと身を寄せられ隙間が無くなった距離に、
ポップは嫌な予感がひしひしして、
慌てた様に首が取れるかと心配になる程横へ振った。

「きゃ、却下だ!外で何て絶対ヤだ…ッ」

此処まで嫌がれば何時もなら引き下がる相手の顔には、
有り得ない程満面の笑み。

逃げを打つ腕は掴まれ封じられた。

「多少の我が儘、許してくれるんだろ?」

「わッばか野郎…ッ」

後に言葉は続かず、花は二人の上に散った。

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【終わり】

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2009/4/10

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