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【期限切れの約束】

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「久しぶりね、本当に。もう!便りもくれないで」

「いやぁ、悪ぃ悪ぃ」

薄情者、と言ってしまえばきっと楽なのだろう。
でも薄情なら自分も言えた立場ではないから。

少しばかりこうして拗ねて見せて、そしてその事への追随は終わり。

疲れを取る村特産のハーブティを煎れてあげる。

その動作を向かい合わせに座るテーブルの対岸で、
片頬づえをつきながら眺めている口が、不意に。

「懐かしいな」

ふわりと笑んだその表情は、旧くて温かくて、痛む何かを慈しむ色。

「初めてこの村に来た時にも、飲まされたっけ」

「何よ、飲まされたってのは」

同じ郷愁に胸を絞められながらも、私はわざと表面上には軽く睨む。

「いやー、あん時の俺等にはちと、大人な味だったなーと」

そんなこちらの強がりに気付かない相手の、
胸を占めるのは今も、昔からも、只一人の面影。

「あ、そうだ。茶と言えば…コレ」

不意に、男にしては細いその腰に下げた草臥れた小袋から、
大事そうに油紙へ包まれた見たこともない草葉や、数粒の丸薬を目の前に差し出した。

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「お袋さんに煎じて飲ませてやってくれ、きっと少しでも楽になっからよ」

「……」

「変なもんじゃねぇよ。東の方で見つけた薬なんだけど、魔法疲弊にかなり効くんだ」

「違うの、疑ってる訳じゃ無いの」

差し出されたその両手は、今ずっと違うものを追い求めている筈なのに、
片隅に人の事まで留め置けるのか。

どうして、こうも不用意に優しい。

「…ありがとう」

贔屓に見て、昔彼が自分を好きだと告げてくれた事が影響しているのかと考えれば、
それは一概に言えない。

彼は自分の内側へ一度招き入れた人々へは、開けっ広げな好意を渡す。

そんな人だから、その筆頭となる彼の親友に纏わる全ての真実も、
一途に受け止められたのだろう。

「安心しろよ、お袋さんはきっと良くなるって」

この目の前に座り、へらり、と笑う一見頼り無さげな外見を持つ青年魔法使いの使う一番の魔法は、
その心が生み出す勇気で。

今も、その言葉はこうして不安を打ち消し、胸に温かさを取り戻させる。

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「ねえ、ポップ」

「ん?」

あの大戦の最中には持てなかったものを、今なら貴方に持っていると。

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―――もしも告げたなら。

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未来は何か変わるのだろうか。

無くした影を求めて世界をさ迷う足音を止め、
この辺境の村へ封じられてくれるのだろうか。

しかしポップは何時だって、自分に向けられる好意にはとことん勘が働かないのだ。

それに、『彼』を形創っているもの、
それには欠かせない、いや欠けてはいけない。
絶対的要素。

それが今は失われたままだから。

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「ううん、やっぱり何でもない」

「何だか今日は歯切れが悪ィな、変なもんでも喰ったのかー?」

「なんですってーっ」

本気でない拳を振り上げて見せれば、笑いながら両手で頭を庇うフリをしてみせる。
いっそ無邪気な表情は、とても19歳の男性とは印象が受け取れ無いから、
何時でも年下の弟の様に感じてしまう。

けれど本当は。

幾重にも重ねられたその思考、もう出逢った頃の様に単純で無い。

どんな僅かな不安さえ、自分に簡単に見せてくれない。

それは追い付けない絶対の距離感を生み出している。

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いつか交わしたあの約束だって
一緒に旅した3年前に答えを出せなかったまま、きっともう期限切れになったと思う。

ああ、でも後悔はない。
私達の絆はきっと別の形で結ばれているから。
絶対無二の勇者を通して。

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「ねぇポップ。ダイはきっと見付かるわよね」

「おう、万事このポップ様にお任せだぜ」

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そう言って笑う貴方が一番らしくて、

その表情が思いがけず好きだと、気付いた。

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【終わり】

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2008/9/8

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