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【再生の言の葉】

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生きてる。

不思議だった。

初めに開いた視界に飛び込んで来たのはダイの珍しい弱気な泣き顔。

強く首にすがって抱き締められ、何が何だか。

「ポップ…!!!良かった!」

俺の名をダイが呼んでる。

一度は失われた筈の思い出が、取り戻されている事をそれで自覚した。

急激に胸が詰まる。

「ダイ…!!」

鼻の奥がツンとしてみっともなく涙が溢れた。
夢じゃない。

レオナもヒュンケルもメルルもおっさんも、一概に安堵の笑みを浮かべ自分を覗きこんでいた。

皆いる。
誰も欠けず、ここにいる。

まだ力が上手く入らない両腕を辛うじて持ち上げ、自分にきつく抱き付く小さな、
しかしたくましく育ちつつある背中にそっと回し存在を確かめる。
とくとくと規則正しい相手の心音が、不思議と自分の生を実感させる。

ダイの服は腰のベルトあたりまで破れ、剥き出しの上半身には無数の切り傷や火傷。

「…闘ったのか?」

少し肩口から顔を離して、こくんと頷く

あの恐ろしいダイの父親は何処にもいなかった。

「親父さんは…」

「ポップ君を助けてくれた後、行ってしまったわ」

細い指先で涙を拭って鮮やかな笑みを浮かべた姫さんが答えた

「俺、を?」

「ポップさっきまで死んじゃってたんだぞッ!!」

ぎゅう、とまたダイの腕に力がこもり、ぐえっとひしゃがれた声がポップから洩れた。

「ダ、ダイっぐるじいっ」

「…あんな事、二度とするなよ…ッ」

自己犠牲呪文なんて。

ぼそりと、耳に擦り寄せられたダイの口から囁くように言の葉を注がれ、くすぐったさに小さく笑って。

「じゃあ二度と俺を忘れんな」

同じく首筋にチクチク当たる硬い髪の毛に、頬を寄せる。

良く干された干し草のベッドの様な、太陽の香り。

二度とこうして手に戻らないかと思った大事な存在。

其を失う位なら命を投げ出しても厭わないほどに。

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いつの間にかこんなにも、自分の内で他人が心を占めるなんて、昔の自分からは想像出来なかった。

「ダイ」

もう一度。
力の入らない両手の変わりに、押し付けられる頬の温かさへ心を込めて名を呼んだ。

「ほらダイ君、何時までもそうしてちゃベホマかけられないわ」

「え?あ、ゴメン!」

レオナに促され慌てて体を離す。

そんなダイに弾ける周りの笑い声。

ぬくもりが離れて、代わりにレオナの癒しの手が、俺の心臓の位置にそっと乗せられた。

「お帰りなさい、それと…ありがとうポップ君」

――取り戻してくれて。

傷を癒す光の波動に身を包まれながら、俺は内情に思考を沈めた。

――礼を言われるまでもない。
姫さん、俺は自分の為にやったんだ。

『二度とするな』そう言われたけど。

だけどな、ダイ。

多分俺はまた同じことをする。

もしこの先お前が理不尽な方法で離れて行くなら、
どんな手を使ってでも何度でも引き戻す。

それはもう、今決めた。

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回復呪文が効いて、ようやく半身を起こす力を取り戻せた。

「ありがとよ姫さん」

レオナに礼を言ってから、ダイに顔を向けると、やっとダイ本来の明るい笑顔を浮かべた。

手を伸ばし、硬い癖毛を綯い交ぜてやる。

「まあ、そんな訳でこれからもよろしくな、相棒」

未だ決着くの付いてない親父さんの事も、大魔王との戦いも、お前の行き着くだろう苦悩の未来も。

喩え死んでもお前を見捨てたりしないと、
あの境で叫んだのは紛れもない真実の思いだから。

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【終】

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2008/9/17

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