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         【春と共に】

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『そこ』に家を建てたのは、まあ成り行きとゆうか、
どうせ拠点とするなら休める小屋が何かあったほうが便利だろうと考えて、
いざ作り始めてみると此がなかなか難しく、本来のダイの粘り強さとオレの探求心で、
あれこれ話し合いしついじって、気がついたらシンプルだが立派な平屋の一軒家が建っていた。

せっかくだから暫く住んでみようかとゆう話になり、
此処に一旦腰を落ち着ける今となる。

まあ、旅ならいつだって直ぐにまた行けるし。互いにそう思っていた。

今は何も縛られず、そして平和なのだから。

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間取りは四つ、簡単に区切った形になってる。
互いの部屋と、暖炉を置いたリビング兼台所。
そして風呂とトイレ。

部屋を一つにすれば自由に使える部屋が一つ空くから、
などともっともらしい事を言ってダイが寝室を一緒にする案を出して来たが、却下。

……毎日だなんて、とんでもない。

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台所床下には地下を掘って貯蔵庫がある。地盤がもともと堅い玄武岩だったから打って付けだ。

水は海水を濾過する容器で作ったり、雨水を溜めたり。
足りなきゃ他の食材の買い出しついでに、ダイへデッカイ水瓶持たせて大陸に行く。
まあルーラってのはホントに便利だ。今は猛特訓してくれた師匠に感謝だなと思う。

薪は家の側面に積み置き、ささやかながら手に入り難い薬草なんかの畑とかも造る予定だ。売れば収入にもなる。

ダイはダイで島暮らしは馴れたモノだから、海に潜って探索したり、その辺りのモンスターや動物と何時の間にか仲良くなったり、
ついでに食材を採ってきたりする。

最近は、手頃な石や木をナイフで削って彫り物を創るのにも凝ってるらしい。ああ見えて手先は意外と器用だ。

そうして2人で過ごす毎日は、
旅暮らしより単調ではあるけれど、悪くない穏やかさと腰を落ち着けて判る新たな発見を持って、
結構いいんじゃないかと思っている。

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春の訪れと共に、新しい地へ根付いた萌葱の植物が一斉に蕾を持つ、

土を豊かにするから、と貰ったこの草花は、
その手渡してくれた相手の髪と同じ、薄淡く優しい桃色をしてとても愛らしい。

それともう一つ。
鮮やな青で小さな鐘に似た蕾が、姿をあちこちに現し覗かせている。

元はこの土地に多く植わっていて、…そして永く眠っていた種が、土壌が蘇った事により再び芽吹いたのだろう。

それは、とても嬉しい事の様に思えた。

もう一度、春雨きたら一面一斉に華開くだろうその時。

照れくさくて内緒にしていたが、旧知の友等にだけは居場所を明かそう。

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いい加減音沙汰無さ過ぎると。怒れる美貌の王女の顔が浮かんで、

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『花便り』の使者はダイにしようと、オレは勝手に決めた。

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【終わり】
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2010/3/8

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