. . . . . 【芽生え雨の時分】
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長雨が続いている。
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大地を延々と濡らす水には、草木ばかりが潤って青々と艶を増すが、
反比例して萎れるダイの広い背中が、窓際にしょぼくれて椅子に座っていた。気分が憂鬱になる原因はそれだけでない。
家の中にも雨が降っていたのだ。
屋根の隙間から染みて伝う雨垂れが絶えずどこかに滴って、
それを受け止めるありったけのバケツや桶でも足りなく、皿やコップまで駆り出され、
ちゃぷぴちキンコンと賑やかに唄っている。他の別室も、ポップの部屋はここと同じくらい雨漏りしていた。
そのため、比較的無事なダイの部屋にポップの荷物(あらかたが本)だの衣類だの、ポップ自身も移っている。
これについてはダイは何の不満も無いが、
根っからの野外活動派な体と精神がじっとしてる事を拒むのだ。「何でこんなに降るんだろ…」
何度目か判らない程洩れたタメ息と呟きに、ついつい応えるポップの方としてもぶっきらぼうになる。
「雨季なんだからしょうがねぇだろ」
「でもこんな状態でもう5日だよ?」
「……家を建てる時もっと板を重ねて屋根厚くすれば良かったなあ。それとも屋根だけ石を敷くべきだったか…」
雫を避けて部屋の隅にお気に入りの藤蔓椅子ごと避難し、天井を睨みつつポップがぼやく。
「それ以前に隙間をちゃんと土で防げば良かったんだよ、ポップったら自分がやるって言ったのに途中飽きちゃって」
「うっさい!過ぎたコトを細々言う男はモテねぇぞダイ!」
口先を尖らしながらぷっと頬を膨らまして子供っぽい不満のあり方を示すポップの顔を見ると、
何だか可愛く思えてきて、ダイの胸に掛かった靄も幾分か薄らいだ。苦笑を浮かべ再び窓の外へ視線を向ける。
「あ、雲が高くなってきた…もう少ししたら止むかな?」
「つっても一時だろうが」
そう言いつつも太陽の期待につられて、ポップも雨垂れをよけつつダイの傍に来ると空を覗いた。
低く垂れ込めていた黒い雨雲が速い速度で流れ、高い位置の灰色の雲は所々降り方が弱く見える。
「貴重な晴れ間が出たらなにすっかなあ…」
ちらっと横目でダイへ向けてきた視線は、あからさまな期待だ。
「おれが屋根に登って隙間を直すよ」
どうせやらなければならない事なので、ダイは期待に応えて肩をすくめた。
「流石、頼りになるう」
手を叩いて囃すポップの調子の良さに、つられて穏やかな気持ちになりながら。
「でもね、その代わり」
隣に立ているポップの袖端を捉えて、くんっと引き近い距離をもっと近く。
「今夜まではおれの部屋に泊まってね」
甘えて願えば。.
雲間からさっと差す光が重い雨粒を煌めかせ、世界が一瞬で変わるように、
ポップの返答でダイの晴れやかな笑顔が浮かんだ。
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【終わり】
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. 2010/4/12 . ( ブラウザの戻るでお戻り下さい ) . . .