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どうして。
自分たちの今ではやりきれない事柄が増えていくのか。
過去より成長して力を付けて。
もっと数多の可能性に手が届くようになった筈なのに。実情は、
真に叶えたい望みは何一つ手に入らない。
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(こんなに無力だったかしら、私達)
レオナはポップに気付かれないよう、そっと息を吐いた。
「ポップ君は、これからどうするつもりなの?」
「…勿論、ダイを探すさ」城から程近い海を渡る風が強く届き、ポップの額に巻かれたバンダナの垂らした端と、その前髪をなぶる。
それに半分表情を隠されながらポップは答えた。レオナの瞳を見つめながらも、何処か遠くに想いを馳せる眼。
「そう」
彼と初めて会ったとき、何だか頼り無げでこんなお調子者な人物に
何故ダイが全幅の信頼を置くのかやや疑問だった。しかし、大戦の中で常にダイの隣に立ち、成長して。
そして誰もが絶望に沈む時に這い上がる強さを持って
勝利に導いたのは紛れもなくこの魔法使いなのだ。彼の本質はずっと変わらないのだろう、相も変わらず道化た態度、臆病な小市民。
しかし、魂は様々な魂と響き合う事で遥か高みへ駆け上がっていった。
胸元に仕舞われている筈の、使徒の印。
彼の魂の名前。
(勇気)
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「君は、『待つ』とは言わないのね」
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終焉から一年……。
かつての仲間達は一部を除いて各々日常にようやく馴染み、居場所を得て落ち着き、
やっと平和が真に訪れたのだと、じわじわとした実感を湧かせている。無論、その平和をもたらした小さな勇者の存在を、
忘れる事なく何時も案じているだろうけれど。
常にその戦力を必要としていた大戦時と違って、
今は必須ではない。それは残酷な現実だった。
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(では…彼は?)
ダイの1番の親友。
勇者の魔法使い。
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ポップがダイを今尚隣に探す理由を、レオナは聴きたくなった。
そんな事は、無粋と知りながら、聞きたかった。
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―――勇気が、欲しかった。
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「別に俺は、」
思いがけず真摯な瞳に射ぬかれて、ポップは居心地落ち着かず僅かに身動ぎした。
「ダイが自力で帰って来ようが、俺が見つけ出そうが、どっちだっていいんだけどさ」
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今朝の、焦燥に胸を焼かれる感覚を思い出して、ポップは衣服の上から鳩尾を押さえた。
「アイツが隣にいるのが当たり前な気がしてたから、なんか、さ……」ハハッと自身をはぐらかす様な笑み。
しかしその言葉が内情する深さを、レオナは感じた。
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「可笑しいよな、だってよ、其こそダイに遇ったのはほんの二年前なんだ」
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今座るテラスから望める海沿いの丘。
そこに安置された一振りの剣が示す存在の手掛かり。脳裏にその姿を、声を、浮かばせるとこんなに息苦しくなるのは何故なのか。
気が付けば、空ばかり眺めて呆けた様な自分が嫌で嫌で堪らない。
何をしていても詰まらない。
誰かと楽しく笑い合う時、ふと隣に空虚を感じて振り返ってしまう。
名を呼べば、情けなくも涙腺が緩んでしまうほど。
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「アイツが、いなけりゃ嫌なんだ」
それは素直な心だ。
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只、只嫌なのだ。
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ダイが此処でない何処かで生きているなら、
『自分の隣にいて欲しい。』
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とんだ我が儘。エゴイズム。
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でもだからこそ紛れもなく真実だ。
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「俺はダイを見つけ出す、必ず」
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ポップは力強く言い切った。
その言葉はどんな高等呪文の癒しよりレオナを満たす。
目の前にいるこの何処にでも居そうな普通の青年は、
この瞬間にこそ全てを超えて賢者であり、偉大な大魔道士で在るのだ。.
無自覚に最も欲しい言葉を、勇気を与える。
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「ポップ君、私も同じ」
レオナは万感の親しみを込めて花が咲き綻ぶ様に微笑んだ。
「私もダイ君が傍に居ないと、嫌なの」
「姫さん……」
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何時もは人の上に立つが故に、自我より責務を優先させるその強靭で崇高な精神の姫が見せた、我が儘。
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「ダイ君を見つけて、ポップ君」
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何より彼を欲する私達の為に。
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「ああ…、任せてくれよ、姫さん」
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ポップは、
大戦時に常に皆を安堵させた、その不敵な笑みを浮かべた。.
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【続】
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2008/7/15
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