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思い出の中は
何時も満たされる光。魔法力を使うときの透明な翠の煌き
今いる世界にはない色。
まるで渇望する地上の代表がその人で有るかのように、
ダイは一人を想った。隣にいてくれたなら、どんな不可能事だって可能になる人。
その存在自体が魔法のような、魔法使い。
「ポップ」
名前を呼んでもあの底抜けに明るい声は聞こえない、
応えない。根城にしている冷たい黒曜石の廃墟に、空虚な静けさが拡がる。
柱に背を預け半覚醒で浅く眠る事にも、もう慣れた。
竜の騎士の血を求め、また理由なき殺戮の的として、休息の間も無く襲われ闘う不条理にも慣れた。
ただ隣に、彼がいないことだけ、
何時までも心が否定する。大戦あの最後のとき、一緒に飛翔した彼は共に逝くと言ってくれたのに。
その手を突き離したのは
・・・・自分のクセに未練がましい。今更ながら父の偉大さを再確認する。
こんな孤独をものともせずに、たった一人で冥竜王と長き闘いをしていたのか。「ポップ」
逢いたいとは言えない。
言ってはいけない。
いくら望んでいても、口に出しては駄目なのだ。
三世界の調停者でもあり真の竜の騎士として覚醒した自分が発する言霊は、
どんな影響を持って世界に響くかまだ知れないし、
こんな人間にとって危険な場所に、不条理な理で彼を呼寄せたくはない。自分の中の罪の意識も阻害した。
でも、名を呼ぶ事は止められない。
心のずっと奥が温まるから。
殺戮に痺れて冷え切りそうな脳に、理性を呼び戻せるから。
勇気を、貰えるから。
ダイの勇気を司る使徒は何時だってポップだった。
今だって諦めてない。
土を食み、魔族の血にまみれても、
闘いに終わりが見えなくとも。いつかあの地上に還ろう。
必ず、還る。
そしたら真っ先に逢いに行って謝って、怒られよう。
凄く、凄く怒ってそして彼は泣くだろう。
でもきっとその後笑ってくれる。
ダイの好きな屈託ない笑顔で。そこで自分の罪は初めて赦される。いつも間にか心の総てを占める存在になってしまった親友を呼ぶ。
レオナの言うような恋とか愛とかと、友情の境目など難しいことはダイには判らない。
ただ直向な純粋さで慕う。
「いつか、還るよ」
隣にあるのが当たり前で、そしてポップもそうであろう。
今度こそその手を離さないのだと、
ダイは微笑んだ。
終
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2008/6/6
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