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《モノローグ》

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パプニカ王女の婚姻の伝達が世界に流布されたのは、勇者の凱旋から一年を過ぎた頃だった。
今までどんな求婚にも頑として動かなかった随国屈指の美姫を、射止めたのはどんな相手か、一躍世界は賑わった。
やはり世界救済の勇者とも、某国の王子とも、はたまた民間出の庶民とも囁かれた。

ただ聡明な彼女に相応しい、包容力ある王が誕生したのは、
其からさらに二年経った今日のパプニカの繁栄を見れば一目瞭然だった。
賑わった美麗な港街は益々拡大され、世界の物流の拠点として揺るぎない。

人波で溢れた市場を縫うように進む旅姿の二人組は、久しぶりの活気ある雰囲気を楽しむようにあちこちを眺めながら買い物をしている。
「いやーすげぇな、あの船見てみろゃ、世界一の客船だってよ!何でも魔法と機械を組み合わせたのが動力だとか、う〜知りてぇ!」
「へーっ乗ってみたいな!幾らくらいだろ」
「ばっか、あーゆうのはお貴族様方専門なんだよ」
「ふーん」
「まあ姫さんに頼めば乗せてもらえっかもな」
「多分労働付きで、だろうけど」
「違いねぇ」
ははは、と長めの前髪の緩やかな濃緑色をしたローブを纏った、ひょろりとした青年が額に巻いた黄色いバンダナを揺らして笑った。
「でも本当に凄いでっかいなぁ」
癖の強い黒髪を潮風に乱されながら、頬に傷のある精悍な戦士然の青年が、純粋に感嘆を込めた人懐こい笑顔で船を見上げる。
その相棒の横顔を、眩しそうにローブの青年は見詰めた。
「世界にはまだまだ俺らの知らねぇ事があんだな、そうゆうのっていいよな、ダイ」
「うん。そうだよね!」
「平和記念祭典は明日から3日間あるし、宿も確保できたんだ。ゆっくりパプニカを見て回ろうぜ」
「そういえば初日には王様のパレードがあるって、宿屋のおばさんがいってたね」

ダイの表情が優しく懐かしむように緩んだ。

そんなダイをちらりと見やって、ポップも微笑む。
「明日とは言わなくても、祭りが落ち着いたら姫さんに挨拶に顔出してみっか?」

「そうしよう!確か赤ちゃんが産まれたんだよね!何かお祝いも持ってこうよ」
ダイの脳裏に眩い美貌の少女が蘇る。
優しく強い、共に戦い抜いた大事な人達の一人。
ダイの最大の我が儘を話した時、許してくれた。

今此処に、いる理由。

「…ポップ」
ダイは右手を伸ばし、今では少し見下ろす感じになってしまった自分の魔法使いの左手を握った。

「な、なんだよ?」

ぎょっとして慌てて掌を離そうとするのを許さずに、やんわり引き留めた。

「なんだか幸せだなぁとか思って」

太陽の様な笑みで微笑まれ、ポップは半分照れ隠しにプイと明後日を向く。
「しゃあねぇな、勇者様はまだまだお子様で」
「もう大人だよ、背だって伸びたし」
抜かされた身長の事を言われてポップはムッとした。

本当はこの三年で背だけではなく、ダイはその精神力も、剣の腕も、文句無しに完成されている。
ダイは何時かポップに誓ったように、本当にとても、強くなった。
それは誇らしく嬉しいのだが。

もともと敵うものなど少ないのに、これでは魔法と小賢しいこの頭脳ぐらいしか勝てるものが無くなってしまった悔しさもある。

「お前の何処が大人だってんだ、本の1つもスラスラ読めないくせに」
「ポップの読む本が難しすぎるんだよ」
ムキになったダイにニヤリと笑って、ポップは言葉を連ねた。

「あんなの一般常識の範疇だっつーの、やっぱりダイはお子様―…」
憎まれ口の後半は相手の顔によって塞がれた。
「お、おまっ…!こんなっ!…往来でッ!!!」
ベリッと音がするかの勢いで、ポップは赤くなったり青くなったりしながら顔を引き剥がした。

「往来じゃなきゃいいの?」
一転、ご機嫌になったダイは、少し意地悪な笑みでポップを見詰めた。
「……ッ!!!」

最早得意の毒舌さえ、あまりの事に振るえなくり、口をパクパクさせるポップをさらに引き寄せて

「じゃあ、続きは宿で…ね?」

熱と共に小さく囁いた。

「…ばッ」
「ば?」

「バッキャロぉ―――――ッ!!!!」

天下泰平。
平和な筈のパプニカにその日、火柱が局地的に上がり、辺りを一時騒然とさせた事も
平和記念祭典の賑やかさに小さな事件として埋もれていった。

勇者も魔法使いも、常世の幸せの中を存分に謳歌しながら、まだまだ長い歴史を二人歩んでいく。

時には再び危機が世界にあり、再び闘う事があったとしても、
それはまた別の物語り…。

【終わり】

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2008/6/11

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