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【透過】
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「ポップ、占いなんてするんだ?」
目の前のテーブルにはカードが裏返しに置いてあり、
いつもの手袋を外した指がそれをペシリ、と捲ってゆく。
「まあな、占い師じゃねぇからハッキリ判るわけじゃねぇけど、占いも魔術の一端だからな」「ふーん」
デルムリン島を出てから幾日か立って、今はマァムの家に逗留している。
ダイにとっては、何もかも興味がある。中でも初めての人間の友達―――ポップ、
自分とさして年が離れていないのに色々な事を知っていて、今一番の対象だ。「明日から又旅の空だからな、行き先の雲行き位は判るだろ」
ベッドサイドに腰掛けながらすぐ近くにあるスタンドテーブルを引き寄せ、
そう言いながらさっき、カードを拡げたのだ。「ねぇ、俺の事も占ってよ」
ん?と手元から視線を外し顔をあげると、
キラキラしたどんぐり眼でポップを見詰めたダイと目が合った。「良いけどよ、さっき言ったみてーに占い師じゃねぇから、かなりアバウトだぞ」
「それでもいいよ」
「わかった」
ポップはカードを一端集めて、手と手の間を器用にバララと往き来させる。
「で?何を占いたいんだ?」
「うーんとね、俺の将来!」
「…デッカクきたな、おい」
「俺がちゃんとカッコいい、立派な勇者に成れてるか!!」
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その前に俺の言った事もちゃんと聞いてたか?
と。やや呆れた様に、ポップはダイを見下ろして溜め息を吐いた。まあ。占うと言った出前、無下には出来ず。
ポップはカードを未来を指し示す矢印形に並べ置く。「いいか、俺が指差すカードから捲るんだぞ」
「うん」
口許を引き締め、真剣そのものな瞳をカードに注ぐダイを
(たかが占いなのに、かわいー奴)
とポップは内心微笑ましく思いながらまず一番ダイに近い出前を指す。
「ここを捲るんだね?」
「ああ」ダイがソオッと捲ったカードには、鉄の戦車とそれを繰る戦士の絵柄。
「ふーん…近い将来、何か力を手に入れる…いいんじゃねえか?」
「ほんと?!」「次はコッチ、左右を一枚づつ」
パラリ。パラリ。
「太陽の正位置、隠者の逆位置…」
「ねえ、これはどうゆう意味?」
「喜べ、かなり順調に勇者ロードまっしぐら」
「次は?」
「この真ん中」
パラリ。
ふとポップの眉が寄せられる。当のダイはさっぱり分からないから、じっとポップの顔とカードを見比べるしかない。
「塔の正位置…マジかよ」
雷に打たれ半ばで折れ崩れる絵柄は、ダイの目にも何やら不吉に映る。
「ど、どうなるの?俺」
「最後はここだ」
ポップはダイに応えず、一番遠い場所にあるカードを指し示した。
「…」恐る恐る、端を持ってゆっくり表へ…
絵柄が現れようとした時、急にポップがテーブルに乗った他のカードごと、その手を払った。
宙にバラバラと舞い散って、最後のカードの行方も紛れて判らなくなる。「び、びっくりした!急に何するんだよ」
「将来なんて知っちまったら、ホラよ、楽しみが無くなるだろーが」
床に落ちたらカードをヒョイヒョイと拾い上げ、丁寧に揃えると荷物に仕舞ってしまった。
「えーだって、その為の占いだろ」「バカ言うな、占いは只の指針、本当の未来は自分で切り開くもんだ」
「…それ、もしかしてアバン先生の受け売りだろ」
「バレたか」
ぺろりと舌を出して、飄々と肩を竦めるとポップは布団に潜り込んだ。
「もう寝よーぜ、明日から歩き通しなんだからよ」「ポップ…ズルい」
「うっさいな、近い将来はわかったろ、それで我慢しろ」
「あー、そっか。それもそうだよね、ありがとうポップ」
単純に機嫌を直して隣のベッドに入る。
それから他愛ない話を互いにして、やっと眠りに就くため
ポップはランプの火を消そうと息を吹き掛けた。「おやすみ、ポップ」
闇に包まれた向こう側から、ダイが既に眠たげな声を掛けてきた。
「おう、おやすみ」「…また、占ってね…」
直ぐに安らかな寝息。
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――しかし。
ポップは闇の中、眼を閉じる事が出来なかった。
じっと ダイの眠る方を見据える。
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「大丈夫…」
小さな呟きは自分に言い聞かせ安息を得る為だったが、効果は無かった。
「あんなの、たかが占いだし、しかも俺の占いだし」
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自分が座る側からちらりと見えた。
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鎌を持ちフードを被る骸骨。
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「あんなの…」
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カードは明日早く焼き捨てて終おう。
浄化の炎にこの不吉な胸の予感も、
全て祓って欲しい。
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「ダイ…道は自分で切り開くもんだ…そうだろ?」
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ポップは祈る様に背を丸め、深い眠りに堕ちていった。
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【終】
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2008/6/27
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