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古
↓
新
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【境界】繋いだ手のひらは、当然ながら温度が違う。
ダイのまだ表面的には幼い手、(剣を振るうから豆が出来てて以外と硬い)
高めの体温がポップの手袋を外した冷えた指先を、
じわりじわり温めた。
今は大魔王バーンを倒す旅の途中、
隣で眠る時はいつの間にか当たり前のに手を繋ぐ様になった。きっかけは何であったか。
ポップが心細かったのかも知れない。ダイが寝ぼけて育ての親と間違えたのか。
他人の温もりは不思議な安らぎをもたらす。
何時しか触れ合った唯一の場所は、熱を分け合い境界を無くした。
「凄いな、お前って」
ポップは安らかに寝息をたてる、
大事な勇者を起こさぬ様に小さな声で呟いた。
他人まで暖める。
その事は、何も手に限った事柄ではない。自分の様に恐怖に震える魂まで。
「勇者がお前で良かっよ」
一途な子供。
自分より小さな。
なければポップはとうに逃げ出していた。
自分も強く成ろうと、踏ん張れはしなかった。
「お前の隣で誇れる様になりたいよ」境界を無くしたこの手のひらの様に。
魂まで強く繋がっていたいと、
ポップは祈りながら眠りに落ちた。
【終】
2008/06/21.
.【理想】
近付きたいよ君の理想に。
強く在ればいい?
全てに勝る力が有ればいい?勇者として立派に悪へ立ち向かう勇気?
隣で震える脚を踏ん張る魔法使い。
「ポップ、怖い?」
「こ、怖かねぇ!」
嘘だ。握る両拳が細かに揺れてる。
しかし救いは、
彼が巻き込まれたのでもなく、
責務でもなく。彼自身の意志によってこの場に立つことだ。
自分の為に隣に並び立つ。それがどれ程凄い事かは、戦線離脱した仲間が魔王の『瞳』に閉じ込められ、
辺りに散らばり傍観しか出来ない事から良く判る。「閃光のように!」
彼の叫びから闘う意思を再び取り戻した。
知っている?
お前の言葉に左右される世界の天秤。
三世界の調停者とか言われてても、
たった一人の只の『人間』に決定着けられる不安定なこの世界の道標。
ああ本当に、
望むのならば、
駆け抜けよう。
ポップ、閃光のように。
「ポップ」
名を呼ぶと、にやりと何時もの皮肉な笑み。そして名を呼ぶ。
「ダイ」
近付きたいよ、君の理想に。
ねぇ、どうなればいい?
「ダイはダイだっ!!!」
「…ありがとう…!」
ならば迷い無く駆けて往ける。
さらば!愛する地上よ。愛する人よ。
【終】
2008/06/22.
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【視覚】
「まだ無理はすんなよ?」
巻かれた包帯が器用な指先によって、手早く解かれていく。
「どうだ?」
「ん〜、まだなんかちくちく奥がするかも」
「そっか」
ポップは普段は手袋で隠された指で、調合した薬を閉じられた瞼に薄く塗っていく。
本とはこんなの気休めだ。
だけど。
指先にそっと癒しの魔法力を乗せて、目蓋をなぞる。「悪い、とか思わないでね」
「・・・・」
「俺嬉しかったんだから。地上に連れ帰ってくれて、本と嬉しかったんだ」
「ダイ」
竜の騎士の特異体質は、環境への適合力も備えている。
暗黒の世界で五年間さまよううちに、僅かな光でも集めて見通せるようになっていた。そこから急に光があふれる世界に飛び込んだ。
強烈な光に焼かれた視界。
精神的な恐れもあってか今だ回復は遅々としている。
(俺が考えなしに、浮かれてダイを連れ帰ったから)
「ポップ」
名を呼ばれて指先がピクリと反応する。
「だから、悪いとか思わないでって。ね?」
つと伸ばされた暖かい手のひらが、迷いなくポップの頬に触れる。
(目が見えてなくても千里眼だな)
浮かべた苦笑を触れた手で読み取り、ダイも微笑んだ。
「でもひとつだけ残念なのは」
包み込んだ片手で、ポップの顔を自分に引き寄せる。
距離はゼロになり訪れた静寂。
「今のポップの顔が見れないことかな」
急激に温度が騰がった頬は、何色だろう。
ダイは目蓋の裏に浮かぶポップを思い出し、
にっこりと笑った。
【終】
2008/06/22.
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.【不測】
遠く見通す海原の空は、灰色に低く垂れ籠めて続いている。
風は独特の湿気ある温かさを含み、船頭に立つダイにまとわりつく。
自然界の変化に敏感なダイは、刻々変わる潮の高さに眉を潜めた。
船尾で櫓を漕ぐポップを振り返る。
「ポップ、嵐が来そうだよ」
「マジかよ、まだ一番近い大陸まで半日はあるんだぜ?」
今朝二人はデルムリン島を旅立ち、パプニカを目指して船を進めている。
此処まで交換で櫓を漕ぎつつ、船頭に立つ方は磁石盤で行先を確めていた。
「間違いない、あと島を半周する位の時間で」
「…なんだって?島?」
「うん、デルムリン島を半周」
「判るかそんな目安ッ!ダイ、陸に着いたらお前にまず時間の一般教養を…」
びゅう、と突風が船を横から揺らした。
「うわッ!」
集中力を欠いた状態の時、不意に不安定になった足場で
体勢を崩したポップは海に落ちそうになる。
宙を掻くように伸ばされた腕を、素早く駆け寄ったダイが掴んだ。
「ポップ!」
グイと強く、船内に引き戻される。
「た、助かったぜ、ありがとよ」
「うん、良いけど…」
まだ握りしめた手を見詰めながら、ちょっと言いにくそうに、ポップを見た。
「ちゃんとご飯食べた方がいいと思うよ。ポップ軽すぎ」
「!!」
ドカーと一気に赤面したポップが、恩のある手を勢いよく振り払った。
「うっせーッ喰ってるよ!余計なお世話だ!
お前こそ何食ってそんな馬鹿力なんだよっ!」
自分より小さいダイに軽々助けられた照れ隠しと、
密かに気にしている太れない体質を指摘された羞恥を塗り潰す為に、乱暴な態度で撥ね付けた。
流石にムッとした表情で、ダイは頬を膨らませた。
「俺はポップの事心配して言ったのにさ」
「それが余計ーな世話だっての」
「じゃあいいよ、もう知らない、落ちそうになっても助けないから」
「おう、別に構わねーよ、頼んでもねぇ」
売り言葉に買い言葉。
狭い船の中で、二人は船尾と船頭にプイとそっぽを向いた。
折しも遠くから雷鳴が近付き、
ポツリ、と舳先を雨が濡らした。
【続く】2008/06/29
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【不測・続】
出立した時の穏やかな海は、旅立ちを歓迎しているかの様だったのに。
(何か最近ツイてねぇッ!!)
文字通り、風に巻かれた木の葉の様に高波に翻弄される小舟の、
縁にしがみつきながらポップは心の中で叫んだ。
櫓は流されないよう手元に引き揚げていた。
とても船を操る処では無い。
叩き付ける大雨に、直ぐ近くの視界もままならない。
内陸部生まれのポップはこんな時、どうしてよいか判らない。
頼りになるアバンも、もういない。
(ダイは…?)
ちろりと舳先を伺うと、ダイは両足で船底の両側に突っ張り、片手は舳先を支えにしながら、
荒れ狂う海の先を睨み付けていた。
おそらく潮の流れや、微妙な大気の変化から、
この嵐が何れくらいの規模か野生の勘を総動員させて測っている。
投げ出されないよう必死なだけのポップとは、偉い違いだ。
先程些細な事で仲違いをしてしまった手前、
大丈夫かと声を掛けるのが躊躇われた。
(アレは俺が悪いんじゃない)
ひしひしと胸を占める正直な後悔に、意地っ張りな性格が反発した。
こんな時こそ、協力しなければならないのに。
オマケに激しく上下する船の動きに、船酔いで視界がぐるぐるまわりはじめた。
(やば…)
すうっと頭や指先から血の気が引いてゆく感覚。
雨に打たれて冷えた衣服は重くて、只でさえ体力を奪う。
具合の悪さに震えた握力が弛んで、今にも掴んだ船縁を離しそうだ。
ポップは眼をぎゅっと閉じて、奥歯を噛み締め必死に耐えた。
【また続く】
2008/06/30.
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【不測・続2】
(この嵐は長く続かない筈だ)
ダイは雷鳴轟く天空を雨脚に逆らい見上げる。
局地的な嵐は、南国に位置するこのあたり特有のモノだ。
突然やって来て滝のように雨を降らせ去ってゆく。
ダイは経験から知っている。
だから落ちついて今はじっと耐えればいい。
(ポップにも教えてやらないと…)
『「それが余計ーな世話だっての」』
(……)
胸がずきずきする。
親切と思ってした事が、面と向かって拒絶されたのは、
初めての経験かも知れない。
(あんなに怒らなくてもいいじゃないか)
ポップの身体的コンプレックスなど、ダイは無論知らないので仕方ないし、
なんせ難解な思考を持つ人間との接触は経験も浅い。
デルムリン島のモンスター達は、育て親のブラス以外みな思考がシンプルで素直だ。
(また余計な事って言われるかな)
さっきの一言は意外と効いた。
何と無く顔を合わせずらくてずっとソッポを向いていたが、
背中合わせのポップがどうしてるか気になる。
何時もはダイが口を開く間もないほどよくしゃべり、
賑やかしい彼が、さっきから一言も発していない。
この酷く揺れる船のせいもあるだろうけれど初めての旅路でいきなり喧嘩。
ダイは昔から、仲間と励まし合いながら困難を乗り越える勇者の物語りに憧れていた。
これじゃせっかくの二人旅なのに、まるで独りみたいな寂しさ。
(うん、やっぱり謝って仲直りしよう!)
短絡的な怒りが持続しないのもダイの長所の一つで、
そう気持ちを切り替えると、ダイはポップを振り返った。
「ポップ御免!さっきは俺が…て、
どうしたのッ?大丈夫?!」
船尾で縁に捕まっていた筈のポップが、踞る様に船底に倒れていた。
慌てて駆け寄り引き起こす。
「ポップ!」
青ざめた頬に速い呼吸。
呼ぶ声に目を開けるが、気力が続かないのか直ぐに閉じられた。
脱力したポップが激しく揺れる船から投げ出され無いよう、
ダイは脇の下から両腕を回して、しっかり自分に引寄せ抱きしめた。
脚のみで船底に踏ん張るのはキツかったが、
仲間を守っているとゆう使命感に力が湧く。
冷えた身体に染み込む暖かさに、ポップは朦朧とするなか僅かに瞼を開く。
頬が触れているのは小さいが筋肉質な剥き出しの肩。
「ポップは俺が守るんだ!」
耳元で、決意するような独り言が聴こえた。
「…御免な、ダイ」
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