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【不覚】

17才になって、昔よりずっと図体が大きくなったくせに、
両手で頬杖つく姿が何故か違和感ない勇者が突然言った。

「ポップはさあ、一度も言ってくれないよね」
「なにをだよ」
「俺の事好きだとか、愛してるとか、お前無しじゃいれないとか…」

ポップは(旅の途中、たまには贅沢したいと財布と随分相談したあげく思い切って頼んだ)
口に含んでいた香り高い年代ものワインを、思い切り吹き出した。
「ワァッ!びっくりした!何するんだよー」
「げほごほぐはッ」

何か抗議しているようだが、咳にむせて言葉にならない。

「俺はいえるよ」

「い…言わんでいいっ」
こんな人がさざめく食堂のど真ん中で、誰が聞いているかわからない。
ポップは何とか頭をフル回転させ打開策を探した。

「言葉にしないと安心しないような奴は子供だ」
「えッ!?そうなの?」
「大人とはそーゆうもんだ」

「うー判ったよ…」
子供扱いされたくないダイは、口を尖らせながら渋々引き下がった。
(なんとか話題を納めた)

ほっと内心安堵したポップは自分を誉めつつ、
さっき味わえ無かったワインに口をつける。
そんなポップにダイは無邪気に微笑みかけた。
「じゃあ身体で体現するね!」

…ポップはまたもや高いワインを無駄にした。


【終わり】

2008/07/04

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【異心】


長い道のりやダンジョンを行くときは、確かに自分の方が体力ないこと思い知らされるけど、
意地でも疲れたなんていいたくない。

昔は、それこそ大昔は。

すぐに疲れたとか、休みたいとか、
気安く言ったものだけど。

だからこそ今はそんな事言いたくない。

きっと隣でたつこの相棒にはすっかりばれているだろうけど。


先から何気にフォローされている。
こんな細やかな気遣いや所作なんて、
昔のこいつには出来なかったのに。

気づいてて気付かない振りなんて。

なんだか悔しくて。

だから俺は意地を張ったまま、甘えやしない。

いや・・・甘えないことで甘えてる。

こいつが昔みたいに遠慮なく明け透けにモノを言ってくれれば、俺だって素直になれるのに、と

人のせいにして甘えてる。

変なところで大人になって、肝心なことは何も

伝えられぬまま。

せっかく、隣にいるのに。

いつの間にか心の伝え方を忘れてしまった。

「ねえ、ポップ」
「何だよ?」
「少し休もうか」
「いらねえよ」
「俺が疲れたんだよ」
「・・・・わかった」
「うん、ありがとう」


ほんとに。
俺はばかやろうだ。

【終わり】
2008/07/06

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【伝心】


伝えたい言葉は山のように胸中に渦巻いてるけど。
いつも途中で必ず遮られるから。

結構不満、溜まったりして。

「ポップが悪いんだからね」
「な、なにがだよっ・・・何だよ!マジな顔してにじり寄るな!!!」
「だから、ポップのせいだ」
「訳わかんねーって!言いたい事あるならはっきり喋りやがれ」

二人、長い旅の途中。
もうずいぶん時間をかけてお互いを理解してきたはずだけど、絶対に許してもらえない線はあって。

寄り添う隣は寛容に生温い。

もっとひりつく様な、熱を言葉で伝えたいのに。


「いいの?」
「・・・・」
「ハッキリいうけど、いいんだね?わかった」
「たんま!やっぱやめ・・・」
「ずるい」

同じ言葉を防がれるなら、せめて意趣返し。

その憎い口に、噛み付いた。


【終わり】
2008/07/10

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【片翼】


ポップは空を翔ぶのが好きだ。

ひらり、ひらりと自在に青空の中、身を翻す様はまるで碧の羽根を持つ鳥に見える。

トベルーラをまだ紋章無しでは使えないダイは、そんなポップを地上から恨めしげに見上げた。


「ねー練習に付き合ってくれるんじゃ無かったのかよー」

魔法の苦手なダイに、
「トベルーラぐらい紋章に頼らねぇで翔べないと、いざって時に困んだろ」
と、誘い出したのはポップの方なのに。

簡単な説明と後はコンセントレーション(集中力)だ!とかアバウトかつ無責任な発言をして、
自身はサッサと宙を舞っている。

「ダーイ、気持ち良いぞぉ?早く来いって」

「酷いよポップ!」

誘う手に届かなくて、ダイは何だか悲しくなる。

「何が酷いんだ、酷ぇってのは、両手を大岩にくくり付けられたまま、
水ん中に放り込まれる事を言うんだぜ」


余程嫌な事を思い出したのか、苦虫を噛んだ様な表情をしながら、
器用に空中で胡座と腕組みをするとダイを見下ろした。

「お前は魔法に対して苦手意識を持ちすぎなんだよ。楽しいイメージ、持ってみろや」

潜在能力はあんだからよー俺と違って。
と、ポップは一瞬苦笑した。

「楽しいイメージ…」
「そうそう」

空を自在に翔べたなら。

きっと楽しい。

風を纏って雲を切って、走り去る景色。

隣に並ぶ、その笑顔。

「…うん、何だか出来そうな気がする。」

「よっしゃ、じゃ。一丁ぶっつけ本番と行ってみるか」


掬うように取られた右腕

「ポップっ!ええ?!」

ポップはダイを連れて遥か碧靂の直中へ上昇した。


「なあ、早く覚えろよ?ダイ」

一緒に翔ぶそのイメージ。

一人ではつまらないから、と。

ポップは空に融ける笑顔で笑った。


【終わり】
2008/07/14

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【裏切】


「お前は行くべきだ」
何処へも行くな。
そうその声で言ったのに。
「行かないよ、傍にいる」

頑ななその姿勢は、一層硬化するとわかっていたけど。

だけど譲れない。

もう二度と裏切らないと誓ったから。

「この馬鹿っ分からず屋!」

苛烈な態度は、ポップの優しさ。

竜の騎士として、俺が迷わず選んで行けるように、突き放す。

「それなら俺がお前の前から消えてやるッ」
それは駄目だ。
絶対駄目だ。

「…わかったよ。」

復活しかけている暝竜王ヴェルザーを、魂の盟約に基づき粛正に行く。

同時に地上も戦禍に呑み込まれていて、そこでポップは必要とされている。

一緒には行けない。


再び俺達は別たれる。
「ポップ」

約束は反故となり、誓った未来は裏切るけれど。

「行ってこい、ダイ」
ポップがまだ微笑んでくれるから。

「行ってくるよ」


俺を思う君を思い出して。


悲しくても笑うよ。

苦しくても笑うよ。

だから、

いつかまた約束は一つに。

誓うよ。


【終わり】

2008/07/14

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