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手にた折る花。
君に手向ける。
何処にもいない君。

どうして、ここに
心だけ遺され。

花は虚しい。

掌を伸ばしても応えないし。

もう声も蘇らないよ。

どうか助けて下さい、長い旅を続けるこの身を。


「ポップ」


永恒傍に在ると思っていたのに。

離れてしまった。
放してしまった。


何処にいますか?

この世界にはもういない君。

ならば其処へ。

微笑んで、

お願いだから、

俺に、触れて?

【終わり】
2008/07/16
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.【誓約】


隣をゆく君は、

柳眉の下緩く瞬く瞼、
流れて跳ねる黒髪と翻る黄土の布地。
線の細い顎と襟足。

一度開けば弾むようにぽんぽんと言葉の羅列が生み出される薄い唇は、
今は軽く閉じて。意外に小さい。

目線が下から見上げていた頃と、少し見下ろす風景になった今。
時は自分を大きく変えたのに、
隣の魔法使いは何故か余り印象は変わらない。
(身体の時を留める魔法ってあったような…)

根も葉もない濡れ衣だが、ついそんな事を考えた。


昔は自分を子供扱いする、この3つ歳上の相手には、
自分の素直な気持ちを伝えても、
まともに取り合って貰えないんじゃ無いかと随分焦ったものだけど。

「…?何だよダイ?」
視線に気付いたポップは歩みを止めて、ダイに向き合う。

「ポップ」

ツイと手を伸ばし、その長手袋に包まれた指を捉える。

「ダイ?」

行動の意図が読めずに眉を疑問でひそめる魔法使いに、ダイは想いを身体の奥深くから連れ出して、告げた。

「俺を置いて、行かないで」


数舜、感情豊かな大きな瞳が瞬いて、

「そりゃあ俺の台詞だろーが」


真顔で返されたので、返答に詰まった。

「う…」

「ほら見ろ、前科者」
「誓うよ、誓ったろ?二度とポップを…」

「判った!判った何度も聞いた」

繋いだ指と反対の手で、ポップはダイの口を塞いだ。

心無しか頬が照っている。

その朱色に見惚れたダイからプイと視線を外し、
ポップは小さく呟いた。

「俺だって、置いてかねーよ、絶対に」

滅多に打ち明けないポップの心の欠片を拾って、
ダイはひしひしと満たされる歓喜に溢れ、胸中に大事な人を抱き閉じ込めた。


「約束だ」

「約束だね」


何時か誓約が破られる刻が来ても。

信じていればきっとまた叶う。

ダイは胸に閉じ込めている魔法使いが起こす
奇跡の力を、知っているから。

【終わり】
2008/07/19

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【微妙】

「ねぇねぇポップ!これ見てよ」


満面笑顔の小さな勇者が、昼食も終わり午後の久しぶりにのんびりとした休憩中、
昼寝を満喫している魔法使いを揺さぶって起こした。

「…んだよ?」

もともと普段から寝起きは悪いが、
気持ち良い浅い眠りを無理矢理に覚醒させられたポップは機嫌が悪い。

眉間に皺を寄せながら、丸い目を見開き仔犬の様に人なつこい顔をしたダイをジロリとみた。

「これ、宿題やったよ」

ぴらりと鼻にぶつかりそうな勢いで目の前に差し出された一枚の羊皮紙。

「ああ?」

まだすっきり働き出さない頭脳を刺激するように、
ポップは片手で髪をガシガシとかき回しながら、その紙を受け取った。

「……」

「………」


「…………どう?ポップ」


「微妙」

一言そう発すると、
服の何処からかスチャリと英石を混ぜ込んで作られた赤いチョークを取り出して、
羊皮紙に書かれた文字に素早く添削をする。

「ほれ、やり直し」

「えええーっ」

ひらりと巻き紙を胸に押し返されて。
ダイはどんな強敵に囲まれた絶体絶命な時でも見せない、情けない表情をしてポップを見詰めた。

「感想がないよっ」

「言ったろ」

「そうじゃなくって、内容のっ」

「だから感想以前の問題だっつーの、スペルの綴りは滅茶苦茶だし、文法は主語と述語が逆だし、
オマケに文字が反転してるし?解読するだけでも古代文字より難解なんだよッ」


「あうう」


「やり直し」

「うん…判った」


ショボンと項垂れたツンツン髪に手をやや乱暴に乗せて、ポップは撫でた。

「ま、いずれキチンと書けたらちゃんと感想付けてやるよ」


途端に明るさを取り戻しだ無邪気な笑顔に、ポップもつられて笑う。

「じゃあ、書き直してくるよ」

元気良く駆け出して去った勇者の後ろ姿を見送った後、

ゆっくりポップは頭を抱えて小さく唸る。

「……何だよ、ダイの奴」

ポップが出した宿題。
文字を覚えるには手紙を書くのが早い。

お前が誰かに伝えたい事を、手紙に綴ってみろよと。
『好きです、会って、ポップが俺は、嬉しいな』
「……微妙なんだよ」

赤面する頬をもてあましながら、

ポップはすっかり冴えた眠りを惜しんで独りごちた。

【終わり】
2008/07/20

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【矛盾】


何時でも憎まれ口を叩くその理由は、
自分なりに幼稚だと自覚はあるけど。


「それは甘えね」

何だか断言されて、物凄く理性は反発する。

次の捜索は多少危険かも知れない未知の場所の為に、
ポップはヒュンケルかクロコダインに同行を依頼するつもりなのだが。

居場所の報告が届いて、ポップに知らせるついでに、
レオナはテラスでポップと短い息抜きのお茶をしていた。

そしてヒュンケルの話になったのだが。


「でもよ、姫さん。俺は彼奴がスゲーって認めるけどよ、別に好きな訳じゃねぇよ」

ポップはもやもやと曇る胸の内を、
言葉とゆう形に出来なくてなんだか気持ち悪い。

自分の兄弟子は、
自分と違って天才だ。
戦士として実力は一級品、オマケに美形とくれば、

同じ男としてポップには嫌味の対象でしかない。

性格は、悪くない。知ってる。
それどころか正義に熱い魂を持ってる。

ヒュンケルを人間的に嫌いな訳じゃない、と思う。


だけど、相対するとつい何時も口が勝手に反比例する。


「だから、そうやって感情をぶつけて発散出来るのは、甘えてる証拠じゃない」

「ぎゃあぁっ!止めてくれっ鳥肌がっ」

瞬時に皮膚が総毛立って痒くなり、じたばたと暴れるポップを横目で見やって。
レオナは呆れた様な溜め息を吐く。


(全く素直じゃない)


第一印象は最悪だったとゆうポップと、
無口なヒュンケルが未だに他の仲間同士の様に、
距離の無い間柄になっていない事は周知の知るところだ。

しかし、ダイを捜索する旅の為、珠に一緒にパーティを組む事は少なくない。

(二人とも、素直じゃない)


余程信頼してなければ背中など、任せられないだろう。


「まあ、それでも上手くいってるなら良いけどね」


「あ、何か投げ遣りな台詞だな、姫さん」


「貴方達はもう其でいいわよ」


甘えている自覚さえ無いポップと、

含みの無い感情をぶつけられる事で、実は精神的に楽になるヒュンケル。


打ち解け無いのに信頼し合う矛盾は、

むしろ二人の絆なのかも知れない。


「精々仲良く喧嘩しなさいな」

思い切り不満気な表情のポップを残して、
レオナは微笑みながら執務に戻るため席を立った。

【終わり】

2008/07/22

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【結果】

あー…。
どうゆう経緯で何て、今更聞くなってば。
つうか聞かないでくれ。


結果論で言えば、

俺が根負けしたっつーか。
ほだされたっつーか。

だってよ、コイツずりーんだ。

百か零か、どっちか選べってんだから。

有か無か。

……無なんて選べる訳ねーだろ、馬鹿。


煩いっ!馬鹿をバカと言って何が悪いんだッ!
引っ付くな!あっちいけ!!


まぁ見苦しいトコに見せちまって済まねぇ。

あ?彼奴はいーんだよ。

え?

叱られた大型犬みたいに、尻尾が垂れて向こうで踞ってるって?


ほっといても夜には復活するから大丈夫だっての。


で、からかいに来たのかよ、オイオイ暇だな。

大丈夫かよパプニカの未来は。


相変わらずだな。
止めろって、恥ずかしいんだよ、その手の質問。

それって完全嫌がらせだろ。


…嘘だよ、判ってる。

ああ、まあ、程々には。


……幸せだよ。
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【終わり】
2008/07/23

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