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古
↓
新
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■これも一つの、エンディング
【旅出】
【光彩】
鮮やかな緑の腕で抱き締めてきた存在。
この赤黒い世界では危険な程に目立っていて、
その背を抱き返しながらも自分は辺りを釼(つるぎ)で牽制する。
「帰ろう」
強く耳許で呟かれた言葉。
――ああ、そう出来たら。
何度其れを望んだか。
どれ程この腕にこの存在を待ったか。
しかし自分の手は既にこの世界と同じ、
朱と墨と灰に染まっていて。
本当なら抱き締める資格もないだろう。
無垢な蒼はもう、
何処にも無い。
「なあ、帰ろう」
応えない相手に少し不安に揺れた、
それでも心底信じた声色で呼び掛けるポップに。
少し寂しく、ダイは笑った。
【終わり】
2008/08/03
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【枯渇】
熱い血は、生きてることをまだ認識させる。
これがすうっと寒くなり、指先の感覚が無くなるとやばいんだ。
足は?
まだ踏み出せる。前に、進める。
肘の延長のように剣を振るえば、有象無象は切り裂けた。
「もう、かまうなよ」
幼い声はしわがれて、元を知る仲間が聞いたらあまりの痛烈に耳を疑ったかもしれない。
「眠いなぁ」
夜や朝の明確な境目がわからないので、どのくらい日にちがたったのかわからない。
食事もまともな記憶が無かった。
ただ、ひりつく様な喉の渇きは、
胸元の細い鎖に繋がった青い輝石を口に含めば、不思議と和らいだ。
暗い大地と空の下を、ひたすら足が前に進むに任せ歩いてゆく。
どこかに、懐かしいものの燐片を探して。
泣くのは当の過去に止めていた。
水分が惜しいのもあるが、泣くのは存外体力がいる。
「あいつはよく泣いたっけ」
ふと胸の奥に灯がともった。
「あいつ・・・名前は・・・?」
どくりと心の在り処がざわめいた。
名前・・・・、名前が。
澱んだ脳裏がせり上がる灼熱で焼き払われた。
「冗談じゃ無いッ!!」
体と脳を侵す瘴気を怒りでねじ伏せる。
「忘れるもんか・・・ッ」
体温より熱い雫が頬を伝うのを、雷鳴轟く虚空を睨んだままダイは感じた。
「ポップ」
力を総て、使い切っても構わない。
ダイはそう思って、只、泣いた。
【終わり】
2008/08/07
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【育成】
「お、また見っけた♪」
草原で足の長い草の根を掻き分ける様に進むポップは、
目敏く屈んで小さな実りをつける草を摘んだ。
数粒取ると、左手に持った革の小袋に詰める。
また収穫に来れるように、全部は採らず残して次を探した。
「さて…と、随分集まったな」
半日程も使って集めた木の実は、一つ一つは随分小さいが、其がずっしりと存在感を示す。
その確かな重みに何だか充足感を覚えて、ポップはニンマリ笑った。
すっくと立って疲れた腰をうんと伸ばす。
「ポップ――っ」
「お?ダイ」
まだ発展途上の12才の勇者はポップの胸まで程の背丈しかない、
その為この草原では向こうからポップ目指してやって来る、ツンツン髪の毛のてっぺんが見えるだけだ。
それでも迷わずポップの位置を目指して進んで来るのは、
優れた感知能力のお陰か、はたまた別の能力か…。
取り敢えずダイはポップの元に辿り着いた。
「もう!朝からどっか行っちゃってて心配したんだからな!」
「マァムには言って来たぜ?」
「もう夕方だよ、こんな遅くなるなんて、何かあったかと思うじゃないか」
真剣な表情のダイが見上げている。
本気で案じて、探しに来てくれたのだろう。
其れを感じてポップめ素直に謝った。
「へいへい、悪かったよ。」
「ところでポップ、何してたの?」
「ん?まぁな…ホレ」
ぽすん、ダイに渡された小袋。
「お前さ、ネイル村の村長に呪文習ってんだろ」
「うん…」
実際成果はかんばしく無い。
「それやっからさ、まぁ、頑張れよ。
あーあ腹減ったな!よし帰るとするか」
「え?!」
スタスタと先に踵を返したポップの後ろ姿を見つつ、手に収まる小袋を開く。
丸くて、小さい薄紫の草の実。
「これって…賢さの種だよね…」
こんなに沢山集めるのは大変だったろうな、とか、
ポップが自分の為にくれた、とか。
本とは凄く嬉しく筈なのに、
山盛りの賢さの種を見てると悲しいんだか何だか…。
素直に喜べない複雑なダイは取り敢えず。
この複雑な気持ちを表す知恵をつけたくて。
袋から一掴み、種を取り出して口に放り込んだ。
【終わり】
2008/08/08
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■珍しく先世代。
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