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■注意が必要です。
BADENDです。暗いです。
はっきり言うと死にネタです。


嫌いな方、苦手な方は、避けて下さい。
以上、ワンクッションでした。

【流転】


どうしようもない


生命は流れ落ち

零れる先に関止める術はない。


「何処へも逝くな」
俺の手のひらを両手で握り締め、
泣いたお前の望みは叶えられない。


「俺は」


吐息と変わりない言葉は酷く不明瞭で、お前は聞き逃すまいと顔を近付ける。

その頬に。


最期の力を注ぎ唇で触れた。


想いは全て持って逝く。


お前が誰より大事だった。


卑怯者の俺は何一つ告げぬまま、


お前に深い疵を一つ付ける。


願わくば


沢山の幸せを、沢山の救いを、沢山の未来を。

そう想うのに、

一方で忘れ去られるのは我慢成らない自分がいるんだ。

何者にも代え難い一つの名を呼ぶ。


「…ダ…イ」


決して


二度と涙など見せないと思っていたのに。

言葉にならず嗚咽に消えた先を引き継ぐように、

涙に濡れながら真っ直ぐな瞳でダイは微笑んだ。
色を失う程噛みしめれていた唇が開かれる。

「……ずっと、好きだったよ」

しばし絶句する。

「どうして…」


お前はその純粋さから、真実へ届いてしまうのか。


「ずっと前から、好きだった」


ああ、止めてくれ。

執着が強くなる。

(良き来世が訪れない。)


教典の言葉だ。


全ての執着を棄てて、手放して。

祈れ、改めよ。


「ねぇポップ、待ってるから」

ぎゅっとまた強く指先を握られた。

「また、あおうね。俺、ずっと待ってるから」

「ああ…」

…頷く以外何がしてやれるだろう。

この孤独な魂に。どうか救いを。

「待っててくれ」


僅かな吐息は落とされた熱い唇に、渡して途切れた。


―――それが、俺が覚えている、最期の記憶。
【終わり】
2008/11/24
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【幸運の連鎖】


思えば俺は昔から運が良かった。


五歳の頃、
二階にある自分の部屋の窓から落ちても鼻を擦りむいただけで済んだし、

十歳の時には町祭りのくじ引きで一等を当てた。


十四歳になって、あのアバン先生に出会って念願だった冒険の旅に出れたし、
実は先生の正体が先の大魔王を倒した勇者だったって事も、
今考えると凄いラッキーだ。

(先生の教示がなけりゃ俺みたいな根性無しが、
一端の魔法使いに成れてるわけがねぇ)

それで十五歳の時には…

ダイに会い、マァムに会い。

沢山の仲間と共に勇者一行の一人として、
大魔王バーンと闘って世界を守れた。

未だに信じらんねぇ奇跡だ。


……。


だから、俺は運が良いからさ。


きっと、叶う。


二十歳になった俺が昔より更にパワーアップした強運で願うんだ。

生きて、お前にまた逢えるってよ。


そう、必ず会えるから。

任せろよ、俺に。


………ダイ。


【終わり】
2008/11/28

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【成長】


年下の癖に生意気だと言われた。

それって結構コンプレックスなんだけどな。

背は多分追いつける、けど三年の年の差は追い抜けないから。


「じゃあどうすればいいってのさ」

と口を尖らせて拗ねてみれば、

「そうそう、そうやってガキらしくしてろよ」

言いながら頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。

その笑顔が思いがけず柔らかで、矢張り追い付けない距離を感じるんだ。


……頼られる様に成りたいんだってば。


年下のクセに生意気だ。
とゆう言葉はあまり良くないのはわかる。

言われた方がムッとしてみたり、
シュンとしてみたりするのを見ると、

あ〜、どうすっかな。と罪悪感にかられるけども。


俺より小さい背で、世間知らずで、なのに。

竜の騎士なんざものに生まれついたからよ。

周りの過度な期待に応えるように、精一杯背伸びし過ぎてる気がして。

そう思う俺自身が頼っちまってるから始末に悪い。

だから、もちっと年相応に我が侭を言えばいいってのさ。

それでなくてもどんどん強くなって、適わないものが増えて、

追い付けなくなることに不安を感じるんだ。

こんな非常時だからゆっくり育て、とは言えねぇけど。

まだ俺に年上面、させとけよな。

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【終わり】
2008/12/01

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【肝要】

「もうこれって何度目?」

「わぁってるって、俺が悪うございました」

今居るのは何時も見慣れた自室ではなく、窓の1つも見当たらない白い壁と白いベッド。

清潔過ぎて温かみに欠ける消毒の匂いが漂う部屋。

またダイの捜索直後にぶっ倒れて気を失ってる間に、
とうとう隔離されたらしい。

「今度とゆう今度は、きちんと怪我も直して、養生で体力つけてからじゃないと出さないわ」

「怪我ならもうへーきだって。一瞬で治るぜ、ほら」


自分で自分にベホマをかけると、旅先で負った脇腹の裂傷が、
血に塗れた包帯の下、跡形もなく消えるのを感じる。

姫さんは軽く目を見張った。
そして僅かばかり、口惜しそうに柳眉をひそめる。

おそらく俺にベホマをかけ続けてくれてたんだろうが、
追っ付かないくらいの深手だったから、なかなか自己治癒が上手くいかなかったんだ。

別に魔法力の差とかじゃない。

でも下手な言葉は返ってわざとらしい。
だから何時もの様に、振る舞うだけ。


「まあ随分寝てて腹も減ったし、養生とか言って、しばらくぐーたらさせてもらうぜ」

ぼふん。とクッションの効いた枕にひっくり返って大袈裟に伸びをしてみせれば、

「当たり前よ5日も寝てたんだから」

まだ怒り冷めやらぬ姫さんだが、
呼び鈴を振り鳴らして胃に優しい食事を用意するよう手配してくれる。

「そうそう、今回の捜索報告なんだけどよ」

「後で良いわ」

ピシャリと封じられた。
しかし此処で引き下がれない。

「そう言うなって、実はすっげー大事な事なんだ」

「…なあに」

「今回偶然立ち寄った地図にも無い村でさ…見つけちまったんだ」


「…」

「幻のヴィンテージワイン!!」


「…は?」

「ほらよ〜姫さんワイン好きだろ?コリャー大変、大発見!
献上するまでは死んでもこいつばかりは手離せねえって、しっかと抱えて来たらさ〜、
後で俺の荷物ん中から取り出しといてくれよ」


「……」


「あ、俺の分取っとくとか考えなくて良いぜ?その村でしこたま飲んできたからよー、ワインは当分いいや」


「君ってほんとに…」

ため息の後に、微笑。

俺のせいで落ちていた暗い陰が少しずつ、溶けてゆく。


「いいわ、せいぜいありがたく貰っとくわよ」

何時ものちょっと高飛車な物言いに、調子を取り戻した事を含ませて、姫さんはウインクした。


そうだ、そうやって、笑っててくれ。

ダイが好きな、その姫さんの笑顔をさ、
アイツが還るまで変わりに守るって、決めたんだ。


【終わり】
2008/12/05

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【面影】


さわりと頬を撫でた冷たい風の気配に、
また冬が深まった事を知る。

「ううっさびぃ!」

濃緑色のマントを襟にかき集める様にまき直して、ポップは赤くなった鼻先をスンと鳴らした。

サクサクと道行きの霜を踏む足音は1つ。

まだ陽の高い昼間と言えど、王都街道から外れた細い山道を登り往く人影は無く。

色を失いつつある寒々しい木々の間、鮮やかな緑の人影はポツンと浮き、とても目立っている。


「これを越えれば見えたっけかな」

当然誰に聞かせるでもない独り言を漏らしながら、頂きに辿り着いた。

眼下に広がる麓の裾には、この季節にも繁った森とそれに抱かれた城下町が望め、ポップの頬が僅かに緩んだ。

朧気な記憶を頼りにトレースした割には、正確な道を選べたようだ。

あの時は夜だったしな、方角しか判ってなかったから、あんまし自信無かったけれど。


「この眺めだよな」

此処に、存在しない隣の影へ語りかける。

失ってからもう三年の年を数えて、
探しても欠片さえ触れられず自分さえも見失いかけた。

だから、辿ることにした。

始まりのその時から、全ての道を。


12と15の子供の足で1日かかった距離は、今の自分には半日だった。


ここに来る前立ち寄った村に居る少女の言葉を反芻する。

《ポップの事、信じてるから私は、ダイが見付かるって思えるの》

もう止せとも、諦めろ、とも告げないその言葉は。

燠火の様に燃えて冷えかけた自分の胸を暖める。


「こんな事意味在るわけ、じゃねーけど」

只、ただ。

あの幼い親友の影を追って。

今は自分を癒やしたい。

ポップは勢いをつけて脚を踏み出す。

寒風はひゅるっと吹いて、山を下りロモスへ向かう

後ろ姿を後押しした。


【終わり】
2008/12/07

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【面影・D】


永遠に訪れない朝に慣れた。

時間の観念は、刻々と変化し点明する微細な闇の天蓋
によって。
またはマグマの海の満ち干によって、知れる事を知った。

地上と同じように時の尺度は進み、生と死は輪廻している。

ここは最上者たる神の御手から零れた世界だと聞いていたのに、

それでもその影響下にあり続けるなんて、なんだか哀れで、おかしい。

初めのころそんな風に考えていたのを思い出すのは、

愛着あるものを、とうとう手放さなくてはならなくなったからか。

小さくなった、一足の靴。

本とはもうずいぶん前から窮屈になってた。

あの頃のものは、胸に下げた印とこれだけしかなかったから、
たとえ劣化して、本来の役割を果たせなくなっても、

手放したくは 無かったのだけれど。

「いままで護ってくれてありがとう」

余計なものを携えていく余裕は今の自分にもまだ無くて。

置いて行くから。

こうしてそぎ落とされていく自分の中の、

地上の面影を、惜しんで離別する。


「ごめん、さよなら」


いつか口にした言葉を呟いて。

まるで再びあの切り裂かれるような胸の痛みを覚えた。

懐かしく、だけど片時も薄れず。

ここには失った、人を。

ひっそりと思い出した。


【終わり】
2008/12/08

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