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金剛の過去設定捏造注意です。

苦手な方は閲覧ご注意下さい。

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だいじょうぶな方のみスクロールを。

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言霊は残る
焼かれた火傷のように何時までも永遠死ぬまで消えない傷のように。
あの時あの瞬間がなければ、いつか自分も異形のモノと成り果て、
永遠の孤独をさまよったかもしれない。
貴方に逢わなかったなら、
自分こそ。

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 【鬼譚】

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「普通になりなさい」
教科書には自分以外の字で<バケモノ>と書かれていた、その事を担任の教師に言いに行った時そう告げられた。
普通になりたい。
どうなれば普通に?

身体の中には何時でも疑問が吹き荒れる。
この髪の色か?
眼の色か?

狭い集落は閉鎖的で、自分の居場所など、何処にもない。

金剛は何時ものように家の裏山を不規則に登った先にある岩場に向かった。
昔この辺りでは銀が採れたらしい、岩も剥き出しの採掘場が歴史に忘れられた様に捨て置かれている。

静まりかえった無機質な世界は、あの遠巻きに無言の目線が突き刺さる教室よりよっぽど楽しい。

ここは自分と、余程の年寄りしか知らない場所だろう。

軽く一軒家程もある水平な大岩によじ登る。
別にこんなのは日常だ、上手く岩肌の僅かな出っ張りに指をかけ、どうやって頂上まで進むかルートを考えながら腕の力のみで身体を引き上げる。むずかしい事じゃない。
登頂すると呼吸を整え、サラシを巻いた拳を握り締める。

静かに頭の芯は冷えていくのにつれて、腹の底からやり場のない感情が熱となって溢れた。

どうして。

「ーはッ!」

拳を振り降ろす
指先から熱い衝撃が肩まで振り抜けた。

眼下の岩はゆっくり亀裂が入る。

有り得ない。
そう先生は言った。
目の前で起きているのに、そう、全てを否定した。

この力。

「毅くん、あなたは普通じゃない」

瞳の奥に怯えを映した大人。

人が言う理屈がわからない。

狙い澄ました一点の箇所を砕く、この瞬間は心地いいがたったそれだけ。
この力は他の人には無いものらしい。
加えて、他の人にはある普通が金剛には無い。

「鬼」

辞書で調べた。

何で。

父も、母も、当たり前の様に足るべきものが自分には無いのだろう。
一緒に住む祖父母は何も教えてくれない。
「もっとお前が大人になったら」
いつもそれだけ、ならば大人になれば全て解決するとでも?
周りが無責任に語る自分への噂が耳に入らないとでも、思っているのだろうか。

でも、本当は怖い。

それを聞くまでは真相は真実たりえないから、どんな酷いことを他人から言われても

「強くなればへいき」
呪文の様に呟いて、金剛はまた拳を握り締めた。
力は胸の奥、それよりさらに底から湧いてくる。
何処へもぶつけられないこの力を、こうやって発散するしかない。
わかっている、人は岩より脆い。
自分を虐めるクラスメイト、無遠慮な言葉を吐く大人達、此処にいない肉親。

心のままにこの拳を振り上げたならば…
もう12だ。自分だってやって良いこと悪い事の分別くらいつく。

しかしこの黒い衝動を、金剛は何時までこうして発散させておけるか、自信が無かった。
いつか本当に自分は。

「あのこは鬼子だから近付いては駄目だよ」
一際高い岩場に登ると、眼下の山の麓に人里が見えた。

金剛が通う小学校もある。
今日は授業参観だった。
もちろん金剛の期待する人の姿はなく、祖母が他の若い母親達に囲まれ居心地悪そうに教室の後ろへ立っていた。
下校時にこれ見よがしに言われたあの言葉は、祖母も傷けるために言われたに違いない。

自分が本当に鬼ならば、あそこに見える場所は居場所ではないのでは無いんじゃないか。

自分が居なくなれば、祖母はあの哀しげな顔をしなくて済むのでは無いだろうか。

夕闇は小さな町を呑み込もうとしている。

ぶるっと背中が冷えた。

「毅、夕飯が冷めるまでには帰っておいで」
授業が終わり、学校を走り出た金剛の後ろ姿へ祖母はそれだけ告げた。
いつも自分が何処へ行っているか、そして何をしているのか、きっと知っているのじゃないかなと思う。

もしこのまま帰らなければ。

いつか憎しみのままに誰かを傷つけずにいられる。

本物の鬼にならずにすむ。

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小さな岩場を器用に飛び降り、地面に降り立つと放り出してあった通学用にしているバックを拾い上げる。
「…夕飯が冷める」

山の闇は濃くて速い、飲み込まれると帰り道さえ危うい。

その時、何かの気配に後ろを振り向いた。

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…その時起こった事を、何と言えばいいか。
いやきっと誰も信じてくれはしないから、自分だけが知っていればいい。

とても、とても衝撃が走った。

あの化け物の事でもなく、不可思議な戦いでもなく

自分に向かって躊躇いもなく差し伸ばされた手。

この姿を見て、何事もなく普通に笑い掛けたその大人。

今までのいじけた自分が恥ずかしくなって、そして憧れた。

きっとあんなに強いかったら、何も怖くなどないに違いない。
真実も、独りも。

強引に弟子になって、証しに渡された大きな釘はズシリと重く
まるでお前に扱えるのか、と言っているかのようだったが、課題を与えられた事がかえって嬉しかった。

いつか、
何時か。

何にも負けないように強くなって。
無機質なものを殴る無意味な力ではなく、自分を救ってくれた師匠のように
この力で、傷つけるのではなく守って行きたい。

次に師匠に会ったなら伝えよう。
鬼にならずに済んだ、その礼と、一緒に旅立ちたい事を。

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そして、誰かに手を差し伸べる。いつか、自分も。

この力はその為にある。

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【終】

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- 2008.02.18 -

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