/.

.

- Mさまの桜と毅と釘にささぐ -


【櫻の樹の満開の下】

.

暖かい風が心なしか夜の闇を和らげる。

山道を往く視界の先に、ぽつりぽつりと灯りを点したように山桜が白く発光していた。

まるで道行きを導く様だと金剛は思った。

この季節になると決まって故郷を思い出す。
今も咲き誇るであろう、思い出の中にあるあの古木の櫻。
そこに眠る、自分だけの秘密も。

置いてきた一本の釘も。
全て、散り積ってゆく花弁に覆い隠され誰も気が付かない。

師匠、師匠。
貴方に遇った行幸は

俺の中で思い出す度一本の櫻のように、繰返し咲く。
巡る月日が全てを過去にしてゆくけれど。
それだけは、永久に不変で在ればいい。

俺はゆっくり瞼を閉じた。

…今夜は、きっと。

闇に咲く華の下に待つ貴方を思い出す。

.

【終】

..

.

- 2007.04.14 -

.

ブラウザの戻るでお戻り下さい

.

.

.

.

.

.

.