.

斑尾

-2007.03.05-

.

オマケSS

「銀露!銀露ッッ!」
綱夜の呼ぶ声は聞こえていた。
だけど眠りは心地好く、やっと酷い空腹からも解放されて。
あたしは幸福だった。
ただ少し、必死に名を呼ぶ哀しいあいつの声が、とても。

…とても。

【毒】

烏守であの夜、綱夜が滅されてからの事は良く覚えていない。
自分が理性を失い酷く暴れた事は聞かされたけど、後で何やかんやで色々説教されたってしょうがなかったんだから。
あいつ、綱夜と関わりが有ったのはあたしだし、あの時はあれしかケジメを着ける方法がなかったしさ。

大昔、綱夜を見逃してくださるよう時守様に懇願した時に、諭す様に言われた。
「辛い事になるかも知れませんよ?」

だからあいつがあんなに荒れたのは、あたしのせいなんだ。
だから一緒に死んでやってもいいかなとも思った。
結局、ちんちくりんの新しい主人に引き止められてしまったけど。

あいつを四百年もの間苦しめたのは、確かにあたしの毒に違いない。
憐みとゆう残酷な毒。
そういえば、この身の内に毒を含ませる様になったのは何時からだろう?

生前は只の山犬だったし。死んで元いた縄張りの山に舞い戻った時には既に毒を備えていた。
その間にあった事なんか…。
ああ、そうだねぇ。
綱夜があたしの心に毒を残したのか。
一人、置いて逝くあたしを呼んで、アイツが鳴いたあの哀しい一途な聲。

馬鹿だね鋼夜。
あたしの事やヒトへの怨みなんか早く忘れれば良かったのに。
あんたがあたしに遺した毒で止めを刺されるなんて、本当、馬鹿みたいじゃあないか。

ねぇ?鋼夜。
今度こそ静かにお眠りよ。
あたしはもう苦しんで無いから。
今日だけは、一緒に山に帰る夢を見ようか。

【終】

.

ブラウザの「戻る」でお戻り下さい(謝)

.

.

.

.