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【Last Waltz】

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元は鮮やかだったろう緑はくすみ、服はあちこち破れ、
マントも擦り切れて。

辛い旅だったことが、一目でわかる。

それなのに、あいつからは。

青い空、吹き抜ける爽やかな風。
大地の、緑の匂いがした。

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無茶をして、魔界にまでおれを捜しにきてくれた。

そのことが、嬉しくて嬉しくて。
抱きついたら殴られた。

「痛いよ〜ポップ」
恨めしく見上げたところで、ぎくりと固まった。
「ポッ、ポップ?」
なんでそんな辛そうな顔して泣いてるの?
拳は振り上げられたままで、また殴られるのかなと頭の片隅で思ったけど、それよりも泣いてることの方が気になって。
「泣かないでよ、ポップ」
涙を止めたくて指先で拭ってみたけれど、後から後から溢れてくる。

どうしよう。

「……っ、くそぉ…」
オロオロと涙を拭くことしかできずにいたら、ポップがくしゃりと顔を歪めた。
とたん、ポップに抱きしめられる。
丁度、おれの肩口に顔を埋めるようにして。

とくん。と鼓動が跳ねる。

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「……ぜってー、許さねぇって、思ってたのによ……」
鼻水をすすり上げながら、小さな声でポップが呟いた。

ぎゅうぎゅうと、苦しくなるくらい抱きしめられて。

とくとくと早鳴りをはじめた心臓の音。
そして、この上なく満ち足りていくような、あたたかい感覚。
胸のところから広がって、じんわり体の隅々まで浸された。

幸せって、こういうコトを言うんだろう。
もう二度と会えないと覚悟してたから、なおさら…。
胸がいっぱいで、言葉が出てこない。

抱きしめ返そうとしたその時、突然両ほっぺを引っ張られた。
「いひゃひゃひゃっ!いひゃいよ、ひょっふっ!」
「うっせー!おればっか泣いてんのはバカみたいだからオマエも泣けっ!!」

そんな無茶苦茶なっ!?
おれは、ほんとに涙目になりながら思った。

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「おれたちが、どんだけ探したと思ってんだ!?」
ようやくポップの涙が引っ込み、ほっぺからも手を放して貰えたけれど、まだお説教は終わらない。
「生きてるなら生きてるで、帰ってこいっつーの!!」
「うん。えっと。ゴメン…」
勢いに押されて謝ってしまう。
「謝って欲しいんじゃねえ」
きっ、と睨まれて、ますます縮こまった。
「理由を言えっつってるんだ。何で帰ってこなかったんだ?」
「それは……」
今までのこと、何て説明したらいいだろう?
ヘタなことを言えば、さらにポップに怒られる気がする。
それは嫌だ。
泣いた顔も怒った顔も、覚えていた通りだったけど、おれはポップの笑顔が見たかったから。
ポップには、笑っていて欲しかったから。
でも、おれが今まで考えてたことは、間違いなくポップを怒らせる、と思う…。
あんまり考えるのが得意じゃない頭で考えてみるけど、うまい言葉がでてこなくて、俯いてしまう。

ポップが、呆れたようなため息をついた。
「……おまえのことだ。どうせ、ひとりで闘うつもりだったんだろ?」

「え?」

びっくりして顔を上げると、仕方ないって苦笑してる顔。
ポップは、黙って背負っていたものを降ろし、おれに差し出した。
今の今までポップのことしか見えてなかったから、“それ”には全然気付いてなかった。

「……これ、おれの……?」
わざわざ背負ってきてくれたの?
魔法使いは体力がないって散々言ってたのに。

「ヴェルザーと一戦やらかすなら、必要だろ?」

こんなことまで、さも当たり前のように言う。

どうして、ポップってばそうなんだろう。

おれが何も言わなくても、おれがしたいことをちゃんとわかってくれる。

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決意が、揺らぐ。

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おれは、ポップの手から、おれの剣を受け取った。
恭しく。万感の思いをこめて。

「ありがとう、ポップ」

本当は、ポップを魔界での戦いに巻き込みたくなかったんだ。
地上で平和に暮らしていて欲しかった。
ひとめ会えれば、それで十分だって、思ってた。

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でも、実際にポップに会って…思い知らされた。

おれは、どうしようもないくらい、ポップの存在を必要としてる。

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心の叫びが、堰を切って溢れだす。
「会いたかったよ、ポップ。
ずっと、会いたかった…っ」

ポップの瞳が、おれの言葉を優しく受け止めてくれる。
何でも話せよって促される。

「だけど、ヴェルザーが地上を狙ってるって知って…。
おれ、せっかく守った地上がまた壊されるのが嫌で、ここで戦おうって決めてたんだ。
…だから、地上に戻れなかった。
けど、ポップが来てくれて、おれ、本当に嬉しいよ。」

心は正直に、言葉を紡ぐ。

「また、おれと一緒に、戦ってくれる?」

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それは、地上での平和な生活を捨て、太陽のないこの世界で生きるか死ぬかのギリギリの戦いを続けるということ。
なんて酷いことを、おれはポップにお願いしてしまっているんだろう。
でも、それでも…。

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「ばぁか」

言葉とは裏腹に、ポップは少しだけ笑ってた。

「んなコトわざわざ聞くんじゃねぇよ。
当たり前だろうが。
おれは、おまえの魔法使い、だろ?」
「おれ、の?」
「そう、おまえの」
くしゃっと頭をかきまぜられる。
ぞっとするほど懐かしかった。
ずっと、そうして欲しかったんだと気付く。

「勇者にゃ魔法使いがつきもんだけど、おれは、勇者の魔法使いってわけじゃないからな」

「…どういうこと?」

「おれは、勇者じゃなくて、“ダイ”を探しにここまで来たって言えば、わかるかよ?」

それに…と、ポップは周囲を見回して、呆れたような顔で続けた。
「ダイよぉ。
おまえさ、相変わらずモンスターと仲良くできるのはいいけど、モンスターの仲間ばっかり増やし過ぎじゃねぇか?」

魔界は弱肉強食。
襲ってきたモンスターたちは、おれの方が強いとわかると、勝手に懐いてきてしまったんだ。
常に側にいる訳じゃないけど、今はおれの様子を遠巻きに見守って、ポップが敵か味方か見定めているらしい。

「でも、魔界のことをいろいろ教えて貰ってるし、根はいいやつらなんだよ」

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「にしたって、もうちっとコッチに強い仲間が必要だろ?」
ポップは、自分の頭を親指で差しながら、ニヤリと笑って言った。
「うん」

ポップの頭の良さはわかってる。
何度もそれで助けられたからね。

「これからも、よろしく、ポップ」
「おうよ!」
ポップがようやく見せてくれた笑顔はとても眩しくて、まるで地上そのものだと思った。

「んじゃまあ、ちゃっちゃとヴェルザーの野郎を片付けて、地上に帰ろうぜ」
力強い言葉に、勇気が満ちてくる。

ポップがいれば、どんな敵にも恐れず立ち向かっていける。

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「ありがとう、ポップ」
久しぶりに、おれも心の底から笑顔になれた。
ふたりで、またこうして顔をつきあわせて笑えるなんて、夢みたいだ。

「何でだろうね?
おれ、みんなに会いたかったけど、中でも一番会いたかったのはポップだったんだ。
辛いときに思い出すのは、いつもおまえのことばかりだった。
だから、今こうしてポップがここにいてくれて、おれ、ほんとにほんとに嬉しいよ」

そう言うと、なんでかポップの顔が赤くなったような気がした。

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誰か、あの天然無自覚タラシな勇者様の口をどうにかしてくれ。

……なぁ、わかってるか?
自分が言ってる、その意味。

……わかってねぇよなあ……

何でまた、こいつはこう、純粋っていうか何ていうか…
思いっきり、告白だとしか思えないようなことを平然と言いやがって。

……クソっ。

おれの方が、気付いちまった……

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仕方ねぇなぁ。
おまえが、自分の気持ちを自覚するまで待っててやるよ。
ヴェルザーに戦いを挑むからには、悠長にも構えてはいられないだろうけれど。
おれは、これからの人生、おまえの隣にずっと居据わってやるって決めたから、さ。

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「ポップ?」
沈黙してしまったおれを、心配そうに見あげてきた最愛の相棒へ、おれは黙って手を差し出した。

不思議そうに、それでも手を重ねてきたダイの律儀さに笑いながら。
二度と離れないように、まだ幼さを残す小さな手のひらをぎゅっと握り締めた。

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【終】

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うたげ様より5万打祝いにSSいただきましたぁぁぁ!
嬉しいぃぃ!こんな素敵なお話、タダで貰っていいんですか?!
以前お宝に頂いた、「
思い出の形」の続編だそうです。
しかも当サイトのメモSS、「選択」の設定も盛り込んで下さったそうで…。ウレシ恥ずかしです。

しかしもう、ポップったらダイ好き過ぎv
ダイの、無自覚天然口説きぶりがたまらなく好きです。
早く自覚して二人してラブラブいちゃいちゃすればいいよ!!
うたげ様ありがとうございました!

>ルドルフ。

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2010.2.3

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