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    【贈物】 

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「ケーキ!ケーキ食べたいよポップ!」

帰るなりドアを壊す勢いで(いや、実際蝶番は今の一撃で既に瀕死だ)飛び込んだダイの台詞に、
テーブルで片頬を付き本を読みつつダイの帰宅を待っていたポップは、胡乱気な目でねめつけた。

「んだよいきなり?」

お互いもうすっかり子供ではなくて、パートナーとして自覚してから数年たった。
なのに現在このはしゃぎっぷりは何なのか。
何処から手に入れてきたものやら、白いモヘアの付いた赤い帽子まで被っての登場に、
ポップは半分呆れたため息を吐く。

一応、世間ではクリスマスなので、ケーキは無くとも少し豪勢な料理にしてある。

毎年レオナが開くパプニカの盛大なクリスマスパーティーを断って散々怨まれながらも、
今年は静かに二人きりで過ごしたいとの希望を出したのはダイの方。

「別に特別な事は無くてもいいから、ポップと一緒に静かにいたいな」

その言葉にポップが胸の奥でちょっと喜んだのは秘密の話だが。

それゆえにこのダイの態度がいただけない。

「……買うにしても作るにしても、今からなんざ間に合う訳ねーだろ。あきらめな」

ばっさり切り捨てポップは立ち上がると、
食卓の準備に、暖炉に掛けていたスープを取るため背を向けた。

「そんな、困るんだ」

珍しく食い下がるダイは、外套も脱がずにポップへ詰め寄って袖を掴んだ。

「だって…ケーキが無いと……なんだ」

不審とは思ったが、ダイはたまに子供っぽい一面を覗かせるため、諭すように笑ってみせる。

「クリスマス気分ってなら鳥あるし、それで手を打てよ。な?」

「チキンじゃ駄目だよ!」

「そんなにヤならもういい!訳わかんねぇこと言うなら今からでも城に行って好きなだけ喰ってこいよッ!」

売り言葉に買い言葉で返した途端に。
それこそ生クリームのケーキを落として壊れたみたいな表情をダイが浮かべ、

「だって…ケーキ、それをポップが食べて…」

ぼろり、と大雨の後の葉から落ちる露みたいに大粒な涙が、
未だに丸さを残す目元からいきなり転げ落ち、
当然そんな様子を見たポップは仰天して、慌てて手のひらでそれを拭った。

「なんなんだよおめぇは!何がしてぇんだ!?」

「……そうして渡せば、ポップが絶対受け取ってくれるって…」

ぐずぐず鼻をすすりつつ、差し出した左手の拳を開く。

その白金には見覚えがあった。

少なくとも簡単に手に入るものではなく、世界最高峰の硬度と魔法力の伝導率を有する金属で、

……ダイの愛剣にも使われている。

それが今、滑らかで優雅な質感を活かした小さな輪となり、二つダイの大きくなった手の上に乗っていた。

「ポップと…お揃いの」

そう言うとダイは、思いがけないびっくりさに動けないポップの左手を掬い上げた。

…確かに何時もなら、恥ずかしさが先に立ち、
こんな関係が他者にバレるようなモノが付けられるかと突っぱねたかも知れない。

しかもケーキにそんな贈り物を隠すなど、ありふれた作戦で。

「ばっかだなぁ。ダイ」

まだ伺うようにじっと見つめてくる真摯な瞳へ向かって、
徐々に熱が集まる頬を隠さずに向けて精一杯真面目な顔をして。

「貰ってやるよ」

踵をあげ距離を無くした。

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さて。

普段なら手袋の下に隠れるから、所有の証も許してやろうとゆう気にもなったものの、やはり気になる事がある。

「―――ところでダイ。ケーキに隠すうんぬんをほざいたのは誰だ?」

「え…指輪作るのたのんだノヴァだけど…」

「そーか。やっぱりあんのキザ北の勇者か。じゃあヤツの口を塞げば他の奴らにゃバレねぇな」

かなり物騒に笑いながら呟いたポップのルーラの光が北に向かって棚引いたのは、
楽しくも濃密なクリスマスの夜が明けた次の日だったとか。

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【終わり】

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あまりのありきたりさとクサさに自分で悶絶して消去したところ、
ありがたい事に「勿体無い」と嬉しいお言葉を何人かの方々からいただけたため、救済いたしました。

こんな情け無いダイでもよいんですか…?…そうですか。
ありがとうございます。




おまけ

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2010/1/8

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