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遥か眼下には城下町が見える。
「どーすんだお前、姫さんとこに戻らないと、大騒ぎになってんぞきっと」なんせ大魔道士と帰ってきたばかりの勇者が二人とも失踪したのだから。
「うん。一度俺は戻るよ」
ダイは迷い無く答える。
「それで?」
「旅に出るって言うよ。」
ポップと、と言わない所は、ダイなりのレオナへの優しさなのかも知れない。
だが肝心のレオナはそんな事はお見通しだろうが。罪悪感がポップの胸に過る。
「お前、姫さんのこと好きなんだろ?姫さんだって、独り身でお前を待ってたんだ。」
間近でレオナを見てきたポップは、ずっと二人が幸せに暮らす未来しか考えて無かった。
いや、あえて考えないように自分を封じていた。
全く今のこんな状態は予想外で、とてもレオナに平静で顔向け出来る気がしなかった。「…お前も出てくなんて姫さんは許さねーと思うぞ…それに俺となんて何時でも逢えるし」
ぽそりと呟く弱気な発言はいっそ懐かしく。
ダイは微笑んだ。「大丈夫だよ、」
大丈夫の根拠がポップには理解出来なくて、つい言葉を重ねる。
「お前、俺が何でパプニカを出たか、わかってるか?」
「うん。平和な世の中に偏った力が有っちゃダメって考えたからだろ?」
「!」
「本とはね、城の偉い人達が話してるのを偶然聞いたんだ」
ちっ、とポップが舌打ちをする。
そんな会話をダイの耳に入れたくなど無かった。
いくら明朗堅固な組織でも、人が多いと思慮が足りない馬鹿も混じる。
「世界の有事ならともかく、俺とポップが二人揃ってる国は、凄く影響力を持つって」
難しい言葉を連ねるダイは、恐らく聞いたそのままを口にしているのだろう。
「…そうだ。まあ本当は俺なんざがそんな影響力有るわけねーが、一応世間的に肩書きは勇者パーティの一員だからな。」
「ポップ」ダイは驚いて、溜め息をつく隣の魔法使いを見た。
この変な所で鈍感な自分の親友は、その存在が如何に今まで仲間達の支えになってきたのか自覚してない。
彼が居ると、其だけで場が明るくなり、困難な事も何とかなりそうな気がするし、
そして立ち向かう勇気を挫けそうな心に宿すのだ。それがどれ程凄いことか、ダイ自身が身を持って知っている。
かつて大魔王の側近であり一番の実力者だったキルバーンが、彼をそういった意味で勇者より最重要視していたのだから。
「ポップは凄いよ!俺が一番知ってるよ!」
「へーへー、あんがとよ」
臆面もない褒め言葉に、ポップは照れ隠しでわざと素っ気なく返事した。
プイと横を向くその頬が紅いのを、ダイは認めてにっこりする。
「ほ、本題からずれてんぞ、お前を待ってた姫さんはどうすんだ」
「ごめんって言ってくる」
「へ?」
「俺の一番はポップだから、レオナの一番になれないから、ごめんって言うよ」「あ…アホかお前〜!!」
その場面がありありと想像出来てしまって、また何の捻りもないダイの真っ直ぐさにも、ポップはくらくら目眩がした。
「俺なんざ二番でも三番でもいーだろうに!て、そーじゃなく…恋愛と友情ぐらい分けて考えろっての!誤解されんだろッ」
「?」
「?、じゃねーッ」
「どう違うの?」
「おーいソコからかよ!?だー17にもなってお子様めっ全然ちがうっつの!」
ちょっとそこへ直れと地面に指を差し、自分もどっかと胡座をかく。
ダイも素直に座ってポップをじっと見る。「まずな、恋ってのは相手に無条件で触りたくなる」
「俺もポップに触りたくなるよ?」
「…まあダチ同士でもスキンシップはあらあな。んでまぁ、恋なら結婚とか、したくなるわけだ」
「結婚ってずーっと死ぬまで一緒にいようって約束だろ?さっきポップ俺の隣にずっといてくれるって言ったよね、これって結婚って事じゃ」
「ちがーうッ何でそうなるんだよ!」
ぐわーとポップは声をあげて髪をぐしゃぐしゃに掻き回す。「いいかダイ!耳カッボジってよーく聞けよッ!」
ビシリと人差し指をダイの鼻先に突き付けて、ポップがもうやけくそに叫んだ。「恋とか愛はなあッ相手とHしたいって思うんだ!どーだ参ったか!?」
「うん。興味あるな、俺」
「……何に」
「ポップとのエッ」
「それ以上言うんじゃねぇーッ!」
自らが掘った墓穴を無かった事にするべく、ポップは両手に巨大な炎を生み出す。
「ポップ!メラゾーマなんてどうするのさ」
「メラゾーマじゃなけりゃメドローアだ!馬鹿ダイ!」「ポップが教えてくれたんじゃないか、俺ポップが好…」
「メラゾーマァァ!」
近距離からの大呪文は夕焼けの様にパプニカ近郊の空を染めた。
「酷いよポップ!」
竜闘気を全開にして避けて、やや焦げてしまった服をパタパタと払うダイの余裕がムカつく。「そんなに照れる事無いのに」
「だーれーがー照れてるっつーんだ」
「だってポップ顔真っ赤だもん」
「!!!」
ばっと両腕で顔を庇うが、それは認めているようなもので、さらに慌てたポップがとった行動は…
「メドローア!」
今度は朝焼けの様にパプニカ近郊の空を白銀に染めた。「だから酷いって、いくら俺でも死んじゃうよ」
極大呪文を二発も続けざまに放って、ゼーハーしているポップにダイは素早く近寄った。
まだ呪文を放とうとしている両手をぎゅっと握りしめ封じた。
自然、真正面に向かい合う形になる。「ポップだって俺の事好きだから、魔界まで探しに来てくれたんだろ?」
「それは…俺が仲間んなかで一番自由がきく身だから!」
「嘘だ。皆から聞いたって言ったよね、パプニカの復興を手伝いながら、何度も危険な所に行って倒れた事もあるって」
「う…」
「どうしてそこまでして俺を探してくれたんだ?」
「だから、あんな別れ方しやがった薄情者に文句の百や2百も言ってやろーと!」
「そこまで思ってくれてて、嬉しいな」
「ば…ッ」
「俺の事、好き。だろ?」
今度こそ正真正銘首まで赤くなった。(生意気だ!ダイの癖に生意気だッ)
ポップは心の中で悪態をついた。
こんな正攻法で純粋に迫られたら、何処まで逃げたってポップの嘘は暴かれる。
つい先程だって、もう情けない位泣きわめいて、すがったばかり。この勇者に心底魂を奪われているなんて、口が裂けても言いたくない。
…今は。でも偽りを赦さぬ鳶色の瞳が、真っ直ぐ覗きこんで来る。
「き、嫌いじゃねぇけど、そーゆんじゃねぇ…ッ」
やっとの思いで吐き出した言葉は、自分でも馬鹿馬鹿しいほど弱い。
「そう?」ダイは不意に握っていた両の手を放した。
ひゅっと二人の間に風か入り、やや体温が高いダイが去るのが寂しいと思ってしまう。
「今はいいよ、それでも。俺がポップの事好きなんだし、その内ポップもそう思ってくれたら俺、嬉しいな」
にこりと屈託なく笑うのは作戦なのか、本音なのか。
戦では誰より智謀を閃かせるポップにさえ真意は読めない。「だって、ポップはずっと傍にいてくれるって言ったし!」
ああ其処に戻るのか、とポップは20年の人生の中で最も、
長い長い溜め息を吐いた。パプニカの城内は、色んな意味で上に下にへの大騒ぎになっていた。
まず大魔道士と勇者が揃って居なくなったこと。
後は城下町程近い近郊の山から巨大な炎が吹き出たり、太陽の様に眩しい光の筋が雲を吹き飛ばし飛びさったりしたのが目撃された事等だ。
すわどこぞの軍の兵器の攻撃か、勇者と大魔道士の気に何か障ったか、と主であるレオナに次々報告が寄せられる。しかし、当の城主、若くも賢明な王女は片手を振って一言で切って捨てた。
「ほっときなさい、痴話喧嘩に振り回される程、馬鹿馬鹿しいものはないわ」
「はぁ、痴話喧嘩?ですか」
「そうよ、はい、この話は終了よ、その内元凶は何食わぬ顔して戻ってくるから」重臣達を追い出して、レオナは一人窓辺に寄る。
海に近いここは潮風が強く、レオナの長い金髪をなぶる。「何と無く、わかってたけど、やっぱりちょっと悔しいわね」
ダイとポップの間には命をかけて求める絆がある。
いわば魂の繋がりの様なもの。
…それを誰が裂けるとゆうのか。「でも私には文句を言う権利くらい、あるわよね?期待させたんだから」
二人ともに。
今頃何処とも知れぬ空の下。
しかしもう離れる事無くずっと在るだろう。
「見てなさい、二人に負けないくらい良い男捕まえるんだから!」
それはとても難しいけと。遠い此処ではない処を眺め、輝く笑顔はとても優しくレオナを一層美しくした。
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2008/6/11
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